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大坂の茶
第二章
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「この度花見を開くがじゃ」
「ああ、太閤様のか」
「それじゃな」
「うむ、その花見にわし等を来てもいいそうじゃ」
「何と、我等もか」
「大名やお武家の方々でなくか」
「そうじゃ。誰でも来ていいそうじゃ」
 こう書かれているというのだ。そのお触れ書きには。
「こぞってな」
「何と。太閤様の御誘いか」
「それか」
「そうじゃ。太閤様の名前まで書いてあるぞ」
 しかも印まである。このお触れ書きは秀吉自らが書いたものだった。
「是非来てくれとな」
「ううむ。太閤様は気前のいい方じゃが」
「今度は花見か」
「我等を花見に誘って下さるか」
 民百姓の間では秀吉は陽気で気さくでありしかも非常に気前のいい天下人だった。猿面冠者として親しまれてもいた。そうした太閤だった。
 その太閤に誘われてだ。彼等は言うのだった。
「ではじゃな」
「そうじゃな。折角の御誘いじゃしな」
「ここは行かせてもらうか」
「そうするとしよう」
 大坂の者達はこぞってこう話した。そのうえでだった。
 大坂の者達は秀吉が開く花見に出た。その場には。
 満開の赤や白、その間の色の様々な梅達が咲き誇っていた。その数も咲き具合も実に見事なものだった。大坂の者達はまずはその梅に圧倒された。
「これは凄いのう」
「うむ、数も多いぞ」
「しかもどれも見事に咲いておるわ」
「匂いもよいぞ」
 梅の香り、それもかなりのものだった。
 彼等はその梅達を前にして圧倒された。その彼等の前にだ。
 小柄で猿に似た派手な金や銀に輝く服を着た男がにこにことして出て来た。彼こそが。
「おお、太閤様じゃ」
「太閤様が来られたぞ」
「天下人様じゃ」
「ははは、皆の者気分はどうじゃ」 
 気さくな笑みでだ。秀吉は彼等に問うた。その後ろには名だたる大名達が控えている。
 その秀吉がだ。彼等に問うたのである。
「この梅達を見た気分は」
「いや、凄いですな」
「全くです」
「これだけの梅を見たのははじめてです」
「わしもです」
 彼等は驚きと喜びを表に出して答える。
「太閤様にこれだけのものを見せて頂くとは」
「いや、眼福です」
「全くですじゃ」
「ははは、目だけではないぞ」
 秀吉は喜ぶ彼等に笑ってこう返した。
「他にもあるぞ」
「他にも?」
「他にもといいますと」
「残念だが今日は酒はない」
 酒は出さないというのだ。
「花見といえば酒だがな」
「酒がないとなると一体?」
「何があるんですか」
「それじゃあ」
「酒の他にも世の中には飲んで美味いものがあるではないか」
 秀吉は彼独特の明るい顔で話していく。
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