終演
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か近づいてきていて、愛を庇うように突きだしていたショウキの腕だった。針程度が青年の腕を貫通するはずもなく、小さな刺し傷を与えたのみに留まって、針はそのままショウキに没収されてしまう。そうして痛みに耐えながら、針を愛の手の届かないところへしまうショウキを、愛は怒りを通り越した哀れみの視線を向けていた。
「なんで庇うわけ? ショウキくんにはもう関係ないでしょ? やっぱり生きて償え、とか言うの? ……ああそれとも、お兄はそんなこと望んでないだとか?」
「いや。ただの……そうだな、我が儘」
「ワガママ?」
「死ぬとかデスゲームだとか……もう、たくさんだ……」
どんなに聞き飽きた絵空事を言ってくるか期待して言葉の暴力を浴びせてみれば、彼から返ってきたのは思いもよらぬ言葉でいて。ついつい愛が素で聞き返してしまえば、ショウキは何かを思い出していくかのようにしながら、陰鬱な表情を崩さずに愛ではない誰かに向かって疲れ果てたようにそう呟いた。
「それに……ざまあみろって言っただろ。生きて敗北感を味わってもらわなきゃ困る」
「ああ――そういうこと」
その後、喋りすぎたとばかりに、そっぽを向いてそんな取って付けたような理由を語る彼へと、愛は適当に納得したような声をあげておく。何にせよ、彼の前では死なせてくれないらしく、愛は溜め息をつきながら立ち上がった。連動するように家の扉が開き、今度こそ真のお迎えが来たようだ。
「ほんと最悪。お兄には会いに行けずに……ねぇショウキくん。ウチはこれからどうすればいいわけ?」
怒ろうとしても、泣こうとしても、暴れようとしても、その度に彼の甘さに毒気を抜かれてしまってきたけれど、愛も最後は苛立ちまじりにショウキへと問いかけた。無意識にも、『これから』などと自らが死から生を選んでいることに気づくことはなく。
「……そんなことを聞かれるのは、二回目だよ」
答えは変わってないが――と自嘲気味にショウキが答えるとともに、部屋には新たな闖入者たちが幾人も入ってきていた。
「はぁ……」
そうして《死銃事件》の重要参考人として、愛は黒塗りの車に乗せられていた。思っていたような警察やパトカーではないそれは、運転手や同乗人の黒服も合間ってむしろマフィアかのようで。適当に外の景色を眺めながらも、様々なことが愛の胸中に浮かんでは消えていっていた。
どこに連れていかれるのか、兄との思い出の家にはもう戻れないだろうな、《死銃事件》の罪はどれぐらいのものになるのか、結局は子供の癇癪にすぎなかったなとか、それに――車に乗せられなかった、彼のことを。どんなことを考えようとしても、最終的に彼のことになってしまう思考に溜め息を幾度も吐きながら、彼との最後の会話のことを思い返す。計画を
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