第一章
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AL MAGE
夜になるとどうして行ってしまう。あの店に。
「おい、今日もかよ」
「あのバーか?」
「あそこに行くのかよ」
その俺に。周りがからかいの言葉をかけてくる。今日も。
そして俺もだ。その同僚達に言う。
「ああ、ちょっとな」
「ちょっと、って言ってだな」
「やっぱり今日もあのバーで飲んで」
「それであの人に会うんだな」
「まあ。わかってるんだよ」
何がわかっているのかも。俺は話した。
「あの人はバーのマダムだからな」
「で、御前は店の客な」
「只のな」
「ああいう商売の人はそうなんだよ」
本当にわかっていた。何もかもが。
「客が店に来てそれでな」
「飲んでくれたりプレゼントをくれるのがな」
「それが目的なんだよ」
「間違ってもな」
どうかと。同僚の一人が俺に言ってくる。
「御前を好きとかじゃないからな」
「それはわかってるよな」
「ああ、よくな」
本当にだ。俺はそのことはよくわかっていた。そのうえでだった。
仕事仲間に応えてそのうえで。そのバーに入った。
ラテン系のタンゴやサルエスラの曲が流れる店の中はあえてダークブルーの薄暗い灯りで雰囲気が作られてた。そしてそのカウンターに彼女はいた。
艶っぽい顔をしていて長い黒髪を波だたせている。左目の付け根に泣きぼくろがあってその目は切れ長のたれ目で二重、それに睫毛が長い。
眉は細く目に添った形をしている。鼻は高い。そして唇は紅のルージュで飾られている。
肌は白い。顔も。その顔を見事な化粧で飾っている。そして見事なプロポーションを黒い胸のところが開いたドレスで覆っている。その彼女がだ。
微笑んでそのうえでだ。俺に言ってきた。
「いらっしゃい」
「はい」
顔を赤らめさせているのがわかる。そのことを理解しながら。
俺はその人にだ。こう挨拶を返した。
それからカウンターの回転椅子の席に座ってだ。そうしてだ。
少し気取った、あえて格好つけてその仕草で俺は言った。
「いつものよ」
「バーボンね」
「それに」
「ナッツね」
「それをお願いします」
その二つを注文して。それからだった。
俺はバーボンを飲みながら。そのうえでその人に言った。
「あの、それでなんですけれど」
「何かしら」
「もうすぐ誕生日ですよね」
上目遣いで見ながら。俺は尋ねた。席に座っているからそうなった。
「それでなんですけれど」
「実は私ね」
俺がこう言うのを見計らっていた様に。この人は俺に言ってきた。
「欲しいものがあるのよ」
「それは何ですか?」
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