第一章
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振り返ってはならない
ベトナムではある言い伝えがある、その言い伝えはというと。
「振り返るな」
「ああ、夜はな」
ホー=ゴアン=チンにだ、曽祖父のホー=ウエン=ザップが話していた。まだ物心ついたばかりの曾孫にだ。
「どんな奇麗な人と擦れ違ってもな」
「振り返ったら駄目なんだ」
「絶対にな」
「振り返ったらどうなるの?」
「その美人に殺されるぞ」
それこそとだ、ザップはチンに話した。
「その美人が鬼だったらな」
「鬼の場合があるんだ」
「夜叉だ」
それだというのだ。
「女夜叉の場合があるんだ」
「夜に擦れ違う美人は」
「ああ、女夜叉はとてつもなく美人でな」
ザップはチンにさらに話した、あどけない曾孫の顔を見ながら。
「それでとんでもなく悪い奴なんだ」
「人を殺すから」
「擦れ違って振り向かなかったら何も出来ないがな」
「振り向いたらなんだ」
「後ろから襲い掛かってだ」
そのうえでというのだ。
「捕まえて血を吸ってな」
「そしてなんだ」
「殺す、とんでもなく悪い奴だ」
こう曾孫に話すのだった。
「あいつ等はな」
「そうなんだ」
「だからな」
「絶対にだね」
「ああ、振り向くな」
そこは何とかというのだ。
「いいな」
「うん、わかったよ」
真剣な顔でだ、チンは曽祖父に答えた。
「僕そんな相手には振り返らないよ」
「絶対にな、あとな」
「あと?」
「若し倒したいならな」
「鬼を?」
「ああ、女夜叉をな」
それをというのだ、その美女の正体を。
「そうしたいなら塩を用意しておけ」
「塩を?」
「沢山な、それで桃の木の木刀で打つんだ」
その女夜叉をというのだ。
「いいな」
「そうしたら倒せるんだ」
「ああ、女夜叉は塩と桃が苦手だからな」
「そうしたものをぶつけたら倒せるんだ」
「そうだ」
その通りだというのだ。
「倒したいならそうしたものを出すんだ」
「うん、わかったよ」
チンも頷いた、そのうえで彼は曽祖父の言葉を頭の中に入れた。この時はこれで終わりやがてザップは天寿を全うしたが。
チンは成長して警官になった、そのうえでハノイで警官として働いていたが。
ある日彼はある殺人事件の話を聞いた、その事件はというと。
「血がですか」
「ああ、被害者は誰もな」
「若い男で、ですか」
「全員血を抜かれて死んでいるんだ」
上司のゴー警部がチンに話した。
「喉からな」
「二つの噛み跡があって」
「そうだ、変な事件だな」
「おかしな事件ですね」
チンはその話を聞いてまずはこう言った。
「ベトナムの話には思えないです」
「ルーマニアだな」
「吸血鬼ですね」
「ああ、実際に署内でも
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