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魔法少女リリカルなのは 〜最強のお人好しと黒き羽〜
第三十九話 アイデンティティ
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、普通に恋をして、普通に結婚して、普通に子どもが産まれて、普通に育てていく。

 恵まれた当たり前の人生になったんじゃないかって。

 そんな人生も悪くないし、憧れるけど、今はそうありたいとは思わない。

 だって俺は、出会ってしまったから。

 出会って、触れて、実際に使ってみて、――――好きになってしまった。

 傷ついて、傷つけて、辛い思いをして、辛い思いをさせた。

 だけど、その分だけ価値のあるものを得て、大切にしたいと思えて、大切に思ってもらえて、そんな出会いと再会を起こしてくれた全てのきっかけ。

 ――――俺は、魔法と剣術が大好きなんだ。

 この世界の誰よりも、俺はそれを大好きだと叫べる。

 だから、こんなところでサボってる暇はないんだ!

「ぁぁァ……ぁああああああああっ!」

 軋む身体を無理やり動かし、海底で藻掻く。

 右腕しか動かなかった身体は、力を取り戻したように再び動き出す。

 だけど、それだけでは運命の鎖を壊せない。

 海底から更に無数の鎖が迫り、俺の全身に巻きついて強引に沈めてようとする。

 全身を締めつけられ、骨が軋む。

 皮が剥げ、肉が削げ、骨を砕こうとする。

 今までにない激痛と、星そのものが重りのような重力が俺の全身を襲う。

 ――――無駄です。

 ――――あなたにはもう、登りきったのです。

 ――――至るべき頂上に至ったのです。

 ――――これ以上、先は用意されていない。

 ――――あなたは、ここで終わりなんです。

(知るかっ!)

 心の底で強い怒声を上げる。

 ここが頂点?

 そんなことはどうでもいい。

 ここが終わり?

 勝手に決めつけるな。

 この先がない?

 そんなわけないだろ。

 どれだけ言葉を並べられたって、それは俺の歩みを止める理由にはならない。

 どれだけ大量の鎖が俺を縛ろうと、それは俺が諦める理由にはならない。

 頂きにいるからこそ、俺には分かる。

 まだ、あるじゃないか。

 目指すべき山々が。

 その頂点で、俺のことを待ってる人たちがいるんだ。

 俺の大好きな世界で、待っている人たちがいるんだ。

 これから更に多くの人が、多くの魔法と剣術を編み出していくだろう。

 それは歴史として語り継がれていき、大樹は広がっていく。

 俺はそれをただ見つめている側でいたくない。

 俺だって、その大樹を育ててみたい。

 俺の中にある可能性は、一本じゃないのだから。

 そう。

 剣術は、何も刀だけが全てじゃないのだから。

 魔法は、何も銃だけが全てじゃないのだから。

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