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魔法少女リリカルなのは 〜最強のお人好しと黒き羽〜
第三十九話 アイデンティティ
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を否定する。

「っ……ぁ」

 ほんの僅かに漏れる吐息が泡となって上に……陸に、空に昇っていく。

 それを追うように、俺は鎖に抵抗しながら右腕を伸ばす。

 なんとか伸ばしきったその腕は、しかしそこまでだった。

 腕は伸びないし、伸ばしただけで浮上はできない。

 俺の右腕を縛る鎖の量が増え、再びその腕は下に引っ張られる。

 より多くの鎖が、俺の運命はここまでなのだと主張する。

 星そのものに引っ張られるような、抵抗しきれないほど圧倒的な運命。

 それに抗うだけ無駄な努力だ。

 右腕はより強い締めつけで血を流し、激痛を走らせ、力を奪っていく。

 ――――無駄よ。

 誰かが俺に向かってそう言っているような気がした。

「ぅ……ぁっ」

 構わず、俺はもう一度、右腕を空へ伸ばす。

 先ほどよりも数の多い鎖に抗うために、先ほどよりも強い力を込めて、何もかもを使い果たしたはずの身体を動かす。

 ――――何故、そんな無駄なことをするの?

 ――――何故、そんな無駄なことができるの?

 ――――何故、そんな無駄なことをしようと思うの?

 女性の声が、俺に問いかけてくる。

 何故、と。

 自分の可能性を全て、自分の持てる全てを使い尽くしても尚、なぜ身体を動かし続けられるのか。

 小伊坂 黒鐘の身体を突き動かすものは何なのか。

 魔導師として、剣士としてのプライドか?

 いや、そんなものはとっくに使い切って燃え尽きた。

 自分が大切と言った少女たちへの見栄か?

 いや、最初から張れるような見栄なんてない。

 亡き父、そしてケイジ・カグラへの憧れか?

 いや、そんな理由で戦い続けられるほど大きな憧れでもない。

 ――――なら、あなたが伸ばす手は、何を掴もうとしているの?

 その問いに、俺は伸ばしきった右手をゆっくりと握り締めて伝える。

 小伊坂 黒鐘が全てを使い切って、使い果たして、燃え尽きて、何もかもが尽きても、尽くしきれない想い。

 五年では尽くしきれないほど果てしない感情。



 魔法と剣術に対する、果てること無き情熱だっ!!!



「っ……ぉ、ぉぉ」

 俺は思うんだ。

 もし、魔法に出会っていなかった。

 もし、剣術に出会っていなかった。

 両親が魔法も剣術も知らない、地球の人たちで、姉さんも頭が良いだけの人だったら。

 きっと俺は、ここまで心を燃やすほどの熱を、抱けなかったんじゃないかって。

 家族とどこにでもある普通の幸せに、人生を費やしていたんじゃないかって。

 普通に学校に通って、普通に友達を作って、普通に遊んで勉強して
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