第63話『水泳』
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隣を見ると──結月も着いている。どちらが先かはわからない。
二人は静かに山本の結果発表を待った。
「晴登君は41秒、結月さんは36秒ですね」
・・・晴登は、完全に敗北した。
*
場面は変わって晴登の部屋。下校中の晴登の暗い様子を見て、結月が晴登を励ましに来たのが事の次第だ。
「ねぇハルト、ごめんね」
「いや、結月のせいじゃないよ。それより、凄いじゃないか。初心者なのに40秒切るなんて」
「うん……」
褒めてみるも、いつものように結月は喜ばない。晴登が心の中で落ち込んでいることがわかるから、素直に喜べないのだろう。
結月は考え込む様子を見せて・・・そして口を開いた。
「──でも、それってハルトのお陰だよ」
「俺の…?」
「うん。ハルトが教えてくれたから、ボクは泳げるようになった訳だし。今回ボクが勝ったのは・・・たぶん偶然。次からはハルトが勝つと思うよ」
「……」
結月の本心からの言葉は、晴登の心を温かく包んでいく。何と返せば良いのか、わからなかった。
「ボクはいつも、ハルトのお陰で頑張ることができてるの。テストの時も水泳の時も、ハルトが教えてくれたから結果を残すことができたの」
結月は押し黙る晴登に近づき、そっと抱きつく。
「ボクはハルトにいつも助けられてる。そして、そんな優しいハルトが、ボクは大好きなの。だから、元気出して?」
「……そう言われて、元気出ない奴とか居るのかよ」
「ハルト?──うわっ!?」
晴登もまた、静かに結月を抱き締める。結月のほんのりとした温かさが、晴登の心を満たしていった。
「ありがとう結月。元気出た」
いつも助けられてばかりだと思っていたが、違った。結月もまた、晴登に助けられていると言ってくれた。二人で支え合えていたということである。晴登はそのことがとてつもなく嬉しかった。
「これからも、俺は結月のことを頼ると思う。だから、その…結月も、俺のこと、頼って…くれて、良い……」
言いながら、晴登は恥ずかしくなる。つい、マンガに有りそうなセリフになってしまった。頬を赤らめながら、晴登は結月の様子を窺う──
「ほえぇ……///」
「え、結月!? どうしたの?!」
「ハルトがカッコ良すぎて、目眩が・・・」
「大丈夫か、しっかりしろ!!」
この時、結月がまた熱を出しかけたのは、また別の話。
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