第63話『水泳』
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様子を、晴登は鮮明に憶えている。無駄の無い、もはや専門ではないかというほどのフォームとスピード。その強烈さは、晴登の目を釘付けにした。
その勢いはターンした後も衰えることなく、そのまま彼は50mを泳ぎ切った。
「えっと・・・32秒」ピッ
「「速っ!?」」
「俺の25mと一緒だと…!?」
大地の速さに驚愕の色を露わにする男子一同。
無理もないだろう。大地は小学生の頃からも、最速を誇っていた。晴登も散々驚かされたのだ。
ただ、そんな大地と並ぶ人物が居た訳で・・・
「春風さん、32秒」
「「「えぇぇ!?」」」
今度は男子だけでなく、女子の驚きも重なる。
莉奈の運動神経は小学生の頃から男子に劣らない・・・どころか、むしろ優れていた。特に、水泳に至っては最速の大地と並んでいる。昔に習い事でやっていたようだが、素質が有ったのか、グングンと伸びたらしい。
「相変わらず速いな、莉奈」
「そっちこそ、いつも通り普通だね、晴登」
「俺まだ泳いでないから!?」
真顔で貶してくる辺りが莉奈らしい。全く喜ばしくは無いが。
そして、そうこうしている内に、いつの間にか晴登の出番が回ってきた。どうやら、隣のコースでは結月も泳ぐらしい。
「前回みたいに負けそうで怖いんだけど」
「さすがに有り得ないと思うよ」
勝負には拘ろうとしない結月を見て安堵する反面、なおさら負けられないと心に誓う晴登。ついに二人はスタート台に立つ。
「それでは同時に行きましょうか。よーい・・・ドン!」
「「……っ!」」ドボン
正直な話、飛び込んだのは初めてだ。飛距離は全くと言っていいほど無く、かつ不格好であったと自分で思う。
もちろん、そんな飛び込みをした時点で、晴登は最初から息が上がっていた。
息継ぎのついでに隣を見ると、結月は真横に位置していた。置いていかれたかと心配したが、やはりまだ初心者だ。スピードは晴登と大差ない。
「なおさら負けられない」と思ったところで、晴登はターンに入る。クイックターンという回るやつはできないので、手を壁についてタッチターンを行う。
必死に腕と脚を動かし、ゴールを目指す。大地・・・いや、伸太郎と比べても雑なフォームだろう。しかし、晴登はただがむしゃらに泳いだ。
ゴールまで残り10m。もう息継ぎするのも億劫になるくらい疲れてきた。だが泳ぎは止めない。
5mを示すラインがプールの底に見えた。もう少し、あと少しだ。晴登はラストスパートとして、死にものぐるいで腕と脚を動かした。
そしてついに・・・
「……っ、はぁっ!!」バン
音が出るほどの勢いで、壁をタッチした。
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