第63話『水泳』
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席番号順に行きましょうか。こちらのコースは1番暁君から」
「うっ…!」
小さく唸った伸太郎を、晴登は見逃さなかった。
運動が苦手な彼にとって、人前で泳ぐことは実にハードルが高い。しかし、逃れることは不可能なので、彼は覚悟を決めなくてはならないのだ。
「それではお願いします」
「うっす……」
おぼつかない足取りでスタート台に立つ伸太郎。その脚は、若干震えていた。
「よーい・・・ドン!」
「っ!」ドボン
「……あれ?」
伸太郎が勢いよく飛び込むのを見て、晴登は異変を感じた……いや、異変と言うのは失礼か。ある事に気づく。
伸太郎の飛び込みは、異様なくらい綺麗だった。
「何だ今の飛び込み!?」
「一切ブレが無かったぞ!?」
「あれホントに暁か?!」
普段の運動苦手な伸太郎からは想像もできない飛び込み。それを目の当たりにしたクラスメイトは、ガヤガヤと騒ぎ始める。晴登もその一員だった。
伸太郎は水中を真っ直ぐに進み、5mを過ぎた辺りで浮かび上がってくる。皆の視線を浴びながら、伸太郎は腕を上げて一掻き・・・
「すげぇ、超フォーム綺麗じゃん!!」
「ホントだ、やばっ!!」
「ちょっとカッコよくね?!」
男子からは賛美の嵐。それほどに、伸太郎のフォームは洗練されたものだった。
しかし誰一人として、ある事実には触れない。
「えー25mで・・・32秒」
「「……」」
伸太郎は泳ぎこそ綺麗であったが、全くスピードは無かったのだ。
結局彼は、50mを1分以上掛けて泳いでいた。
*
「はぁっ…もう水泳なんて懲り懲りだ…」
「お疲れ。でもフォームは綺麗だったと思うけど?」
「そりゃ、昨日調べたからな」
「あっ……」
もしかしたら伸太郎には水泳の素質が有るのかと思いきや、そういう訳では無かったらしい。きっと彼も結月と同じように、"学ぶとすぐに身に付くタイプ"なのだろう。
「てことは、結月は天才になれるってことか…!?」
「何言ってんだお前」
伸太郎の冷静なツッコミが刺さる。しかし、勉強では敵無しの伸太郎と同じような性質であるならば、今しがたの晴登の言った可能性は否めない。まぁ実現してしまうのは嬉しい反面、自分が惨めになるから嫌なのだが。
「次は鳴守君」
「よっしゃあ!」
「頑張れよ、大地」
「お互い様だ」
晴登に対して、大地はグッと親指を立てる。その逞しさは、少なからず劣等感を覚えるほど立派だった。
「よーい・・・ドン!」
「……!」ドボン
その時の
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