巻ノ百三 霧を極めその六
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「戦もじゃ、ご存知なくな」
「わかってもおられない」
「ですから」
そうした者だからだというのだ。
「間違ったことをな」
「されていかれますな」
「うむ、そしてじゃ」
「あのままいけば」
「大坂、豊臣家はな」
「滅びますか」
「それも有り得る」
これが幸村の見立てだった。
「そうも思う、特にな」
「特に?」
「切支丹のことで誤れば」
その時はというのだ。
「大変なことになりましょう」
「ですか」
「茶々殿は何もご存知なくわかっておられぬが」
しかしというのだ。
「決断は速くじゃ」
「それは尚悪いです」
断が速いにしてもその断が悪ければというのだ。
「人の話も聞かれぬのですな」
「止められる人物が大阪にはおられぬ」
「お一人も」
「それだけにな」
「まずいですな、それは」
「そうであるな」
「はい、太閤様についても」
百地も言う。
「やはり」
「大納言様がおられたからな」
「止められていましたな」
「それがおられなくなってな」
「ああなられましたし」
「止められる方がおられぬとな」
幸村はさらに言った。
「そうした方が必要な方の場合は」
「まさに茶々様がそうであり」
「あのままではじゃ」
「大坂は、ですか」
「誤ってじゃ」
そしてというのだ。
「厄介なことになるやも知れぬ」
「左様ですか」
「うむ、だからな」
それでというのだ。
「そのことはわかる」
「断は速く正しく」
「そうあるべきじゃな」
「誤った断をすぐにして変えぬとで」
「最悪じゃ」
まさにというのだ。
「それはな」
「その通りですな」
「あの方をどうにかせねばな」
「大坂はまずいですか」
「そう思う、拙者はな」
「その通りでしょう」
百地も否定しなかった。
「やはりです」
「誤った断をすぐにどんどん下されてはな」
「滅びぬものも滅びます」
「拙者も気をつける」
「そうされて下され、では」
「師匠はこれからもですか」
今度は霧隠が師に問うた。
「ここに隠棲されて」
「そしてじゃ」
「最期の時を迎えられますか」
「そのつもりじゃ、ではな」
「はい、それでは」
「おそらくもう会うことはあるまい」
百地は微笑み弟子に話した。
「しかし話は風が伝えてくれる」
「それでは」
「御主達が働く時があれば」
その時はというのだ。
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