巻ノ百三 霧を極めその五
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そしてだった、遂にだった。
免許皆伝になり広い範囲を濃い霧で覆いその中を縦横に動いてみせてだ。百地と互角に勝負をした時にだ。百地は彼に言った。
「うむ、これでよい」
「免許皆伝としてですな」
「無事に送り出せる」
霧隠、彼をというのだ。
「よいことじゃ、ではな」
「これからもですな」
「鍛錬に励め」
是非にというのだ。
「わかったな」
「勝利しております」
「ではよい、しかし迂闊にはな」
「はい、動くなですな」
「そうせよ、迂闊に動けばな」
その時はというのだ。
「おかしな時になるからな」
「常にですな」
「そうじゃ、慎重にじゃ」
「ことを考え動き」
「下手にことを荒立てるな」
「戦の時も」
「当然じゃ、戦の時こそじゃ」
むしろ普段よりもというのだ。
「考えも動きもそして言葉もな」
「全てですな」
「慎んでじゃ」
「そしてそのうえで」
「ことを進めよ」
「はい、そのことはです」
幸村も百地に言ってきた、彼もまた霧の中で動いている。まるで見えている様に縦横に動いている。
「それがしもです」
「真田殿がそうであれば」
「主がですな」
「さらによいです」
まさにそうだというのだ。
「やはり」
「ですな、それでは」
「真田殿は常に慎重であられますが」
「さらにですな」
「はい、慎重にされて下さい。ですが」
「慎重であり」
「それでいてです」
それに加えてというのだ。
「果断にです」
「決めるべき時は決める」
「そうされて下され」
「将としてですな」
「左様です」
まさにというのだ。
「決められて下され」
「しかも正しく」
「はい」
ただ決めるだけでなくというのだ。
「そうされて下さい」
「間違った断をするとな」
「滅びます」
そうなってしまうというのだ。
「これまでそうなった者は多いです」
「そうであるな、そしてな」
「そしてとは」
「そうした方は今もおられるな」
「まさかと思いますが」
そう聞くとだ、山奥にいる百地も心当たりがあった。その心当たりは一体誰のことかというと。
「大坂の」
「うむ、茶々殿はな」
「あの方は確かに」
「百地殿もそう思われるな」
「聞く限りは」
伊賀の奥にいても聞いてというのだ。
「どうにも」
「そうじゃ、あの方はな」
「果断でありますが」
「政がわかっておられぬ」
全くとだ、幸村は言った。
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