巻ノ百三 霧を極めその四
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「だからこそな」
「それがしにですな」
「術を授ける」
そうするというのだ。
「奥義も全てな」
「霧の術の」
「わしが備えておるな」
まさにというのだ。
「その全てをな」
「授けて頂いて」
「そうしてな」
そのうえでというのだ。
「さらに修行に励んでもらいじゃ」
「強くなり」
「ことを為せ、真田殿にお仕えしてな」
「はい、しかし」
「しかし。何じゃ」
「師匠はそれがしが殿を裏切るとは」
「それは絶対にないわ」
百地は笑って霧隠の今の言葉を否定した。
「絶対にな」
「そう言われますか」
「うむ」
返事は明瞭だった。
「御主の目を見ればわかる」
「目ですか」
「よい具合に澄んでおる、その目ならばな」
強くそのうえで一途な光をたたえた目だ、その目ならというのだ。百地は霧隠にさらに言った。
「それはない」
「十勇士の他の者達も」
「そうした目だから今も共にいるな」
「二十年以上になります」
それぞれ幸村と会い共にいる様になってだ。
「最早」
「そうじゃな、その間真田殿に二心を抱いたことはないな」
「一度も」
まさにという返事だった。
「ありませぬ」
「そこまで想いが強いならな」
「殿を裏切ることはですか」
「ないわ」
笑っての言葉だった、またしても。
「それはな、それにな」
「さらにありますか」
「真田殿は御主達を裏切らぬ」
幸村、彼もというのだ。
「それもまたない」
「殿が我等を裏切るなぞ」
霧隠は百地に即座に答えた、それも全力で。
「天地がひっくり返ろうともです」
「ないな」
「はい」
断言だった。
「それは絶対にありませぬ」
「そうじゃ、真田殿も御主を裏切らぬ」
「それならばですか」
「御主達も裏切らぬしな」
このこともあってというのだ。
「共にそうであればな」
「裏切ることはですか」
「ない」
そうだというのだ。
「共にそうであればな」
「だからですか」
「うむ、御主達と真田殿は決してじゃ」
「共に裏切らず」
「道を進む、この度の修行ではっきりとわかった」
彼等の絆の強さもというのだ、腕が立つという意味での強さだけでなく。そうしたこともわかったというのだ。
「よくな」
「そうですか」
「だからこそじゃ」
「備えた術で、ですな」
「戦うのじゃ、よいな」
「わかり申した」
「さらに強くなってな」
こう言ってだ、百地は霧隠を鍛え続けた。霧隠は主の教えた術を次から次に身に着けていった。
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