巻ノ百三 霧を極めその三
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「悪であると」
「ではそうした殺しをしなければ」
「よいとのことです」
「ふむ。では我等は」
「百地殿は遊びで人を殺されたことはおありでししょうか」
「いや」
百地は首を横に振って答えた。
「一度も」
「ではです」
「よいですか」
「そう聞いておりまする」
「戦や働きで人を殺めるのは仕方ない」
「しかし遊びで殺すのは」
それはというのだ。
「許されぬことだと」
「地獄に堕ちることだと」
「言われました」
幼い頃にというのだ。
「ある高僧の方に」
「では我等は」
「はい」
まさにというのだ。
「地獄には堕落ちぬと」
「そうですか」
「はい、それよりもです」
「そうしたことを気にせずにですな」
「鍛錬に励み」
そしてというにだ。
「修行励むべきと」
「成程」
「どう思われますあ」
「有り難いことですな」
百地も唸った、幸村のその話には。
「どうにも。しかし」
「それでもですな」
「遊びで人を殺めるなぞ」
「外道ですな」
「それがし一度もです」
百地にしてもというのだ。
「したことはありませぬ」
「よきことですな」
「忍術はそうしたものではござらん」
「働きの為のものですな」
「はい」
そちらに使う術だというのだ。
「悪事に使うものではありませぬ」
「全くですな」
「はい、ですから」
百地にしてもというのだ。
「それがしも弁えておるつもりです」
「それは何よりですな」
「そして真田殿もまた」
「はい、戦で人を殺めますが」
だがそれでもというのだ。
「一度もです」
「ご自身の武芸をですな」
「悪しきことに使ったつもりはありませぬ」
「殿程それをわきまえた方はおられませぬ」
霧隠も言う。
「全く以て」
「そうであろうな」
「師匠もそれがおわかりですな」
「うむ、目でわかる」
幸村のその目を見ればというのだ。
「実にな」
「そうなのです」
「そうした方だからか」
「はい、それがし達もです」
家臣としてというのだ。
「お仕えしております」
「そうであるな」
「弱き者をいたぶることも」
そうしたこともというのだ。
「断じてされませぬ」
「そうした方だからこそ」
「はい、素晴らしいのです」
「よいことじゃ」
百地も言う。
「そうした方に巡り会えてな」
「全くです」
「ではじゃ」
百地はこうも言った。
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