ターン78 鉄砲水とシャル・ウィ・デュエル?
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上手くできたかな、だってさ。清明、ちょっと味見してくれる?」
そう、夢想だ。彼女の持ち出した条件の2つ目は、自分にもこのパーティーを手伝わせること。意図は読めなかったけれど、厨房に立っている間ずっと彼女のそばにいられて、しかも怒っていたのも全部チャラにしてくれるというならば安いものだ。大人数の料理は普段やり慣れていないと料理慣れした人でも調子が狂うことが多いため、なるべく調理が簡単なものを割り振っておく必要があるのがちょっとばかし頭を使うところではあるが。ちなみに葵ちゃんは今回、そのくの一ならではの体力とバランス感覚を生かしての下準備と給仕に集中してもらっているため厨房はお休みだ。
「どれどれ、じゃあ……」
「ううん、ほら。あーん、だって」
「え!?」
菜箸で卵焼きをつまみ、僕の口元までそっと持ち上げて笑う夢想。え、ちょっとまって、今なんて言ったの、え!?
混乱している間に卵焼きはずんずん進み、もはや僕の唇にぶつかりそうなほど近くまで寄ってきていた。混乱してわけのわからないまま、言われるがままに口を開く。
「ほらほらどうぞ、ってさ。あーん」
「い、いただきます……」
今この場に鏡があれば、さぞかし耳まで真っ赤になった姿が見えたことだろう。当然、そんな状況で味なんてわかるわけもない。夢想は夢想で最初から自分が何をやったのかは無自覚なのか、そんなこととはつゆ知らずに感想を求めて期待たっぷりの目で見つめてくる。
そんな膠着状態を打ち壊したのは、折よく帰ってきた葵ちゃんの冷めた一言だった。
「あの、先輩方には大変申し訳ありませんが、いちゃつくのはこれ終わってからにしていただけます?」
「え、あ、そうだよね、うん!じゃあ葵ちゃん、そろそろ終盤だろうし冷蔵庫の中からホールケーキ持ってきて!ほら夢想も、それだけ出しちゃったら葵ちゃんのこと手伝ったげて!」
「むー。せっかくいい雰囲気だったのに……って」
「いや否定してくださいよ。砂糖吐きますよ?では、私もしばらくペアデュエル観戦してきますので」
「そこで置いてかないで!?」
ああもう、とてもじゃないけど今は夢想と目が合わせられない。しかも観戦してきますってなんだ、んな余裕があるならわざわざ声かけるんじゃない。
外の騒ぎに耳を傾けると、どうやら十代と明日香のペアが注目を集めているらしい。よっぽどのヘマでもしない限り、優勝はあの2人だろう。どうせ振られたんだろうし、後で万丈目慰めに行ってやろうかな。若干の現実逃避も兼ねてそんなことをぼんやりと考えながら、胸の奥である1つの思いを感じていた。
……こんな日が、ずっと続けばいいのにな。
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