暁 〜小説投稿サイト〜
転生も転移もしていない私が何故ファンタジーの世界で魔王と呼ばれる事になったのか。
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巻き込まれた夜
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『や〜 だからさぁ、ひっさびさに誰かと対話するからも〜 色々とハッスルしちゃって説明がおざなりになったのは正直自分的にアレだったと思うよ? でも一貫して無視は酷いと思うんだ』
結局呆然自失状態で周りの景色と自分の置かれた状況を咀嚼し尽くし、今私が触れているこの世界は脳に埋め込んだデバイスが見せている仮想世界のリアルでは無く、真っ当なリアルだと気付くのに体感時間にして一時間足らずを要した。
それを認めるに足る事実は意外にも今も私の頭の中に無遠慮に話し掛けて来るこの声、『フォルテ』と呼ばれる存在にあった。
記号にすれば『f』、楽譜等に記載される演奏記号から採られたこの名称の存在は、『強く』という意味を持ち、イタリア語を語源とするforteと表記される。
私はこの存在を知っている、と言っても私が関わった有機デバイス開発プロジェクトの拡張機能を担う部分、各種通信サービスを補助する人工知能、位置付け的には検索補助やユーザーの好みを反映した案内をするという、コンシェルジュ的な存在として用意されるツールとして別部門で開発されていたソフトであったと認識している。
記憶の隅に転がっている部分をほじくり返すと、それは確か単純な言語抽出から始まり、反復学習を経てユーザー個々の『好み』を記憶し、それに沿った検索結果を抽出するという極単純なプログラムだったと思うのだが、私の頭に今語りかけているヤツはそれとは大いに違った存在であり、またそれなりの『個性』を有した、しかもかなり汎用性に富む人格を有した存在と言えた。
『まぁ君の現在置かれている状況を鑑みれば仕方の無い事だと同情はするけど、自身の常識外の部分には排他的という識者特有の考え方は正直どうなんだと僕は思うね』
「……人工知能如きにご高説をたらたらと垂れられるのは正直気持ちの良い物では無いが、現状を考慮すればその辺りの事は甘んじて聞く他は無いと諦めざるを得んな…… で? 自称人工知能のお前は、今現在私が置かれているこの状況を理知的かつ簡潔に説明しつつ、私を納得させる術を持っているのか?」
『硬いっ! 言い回しとか話し方が硬いよ! そんなだと他人からは一歩踏み込んだフレンドリーな関係になりたくても近寄り難くて色々と損しちゃう人生を歩むんじゃないかって思うよ』
「努めて誰かと友好を深めようとは思わんが…… 寧ろ現在私は何も無い平原のド真ん中でマッパ且つソロブレイ状態だから、お前が言う他人との接し方という部分に於いての心配は現状皆無なのでは無いかと思うのだが?」
『あー、それなんだけど、今現在という部分ではかなり重要案件じゃないかって言ってみたり?』
「……どういう事だ?」
『んとぉ、君の現在位置と方向から計測して、右斜め後方凡そ30mの位置』
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