巻ノ百二 百地三太夫その九
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「それは」
「どうもそこもまでのな」
「凶兆がですか」
「出ておる」
星にというのだ。
「それがな」
「厄介ですな」
「果たして幕府のどなたか」
「そこまではですか」
「拙者にもわからぬ」
その星の動きを見つつだ、幸村は霧隠に話した。
「どうもな、しかしな」
「それでもですか」
「何かよからぬことが起こるのは間違いない」
このこと自体はというのだ。
「幕府、そして天下自体にな」
「よくないことが」
「嫌なことになりそうじゃ」
そうしたものだというのだ。
「どうもな」
「左様ですか」
「この凶兆によってじゃ」
幸村はさらに言った。
「さらなる禍があるやも知れぬな」
「そこまでのものだと」
「そうも思った、一つの過ちがさらに過ちを呼び込む」
「そうしたものだと」
「そうやもな」
「ふむ、それがしは星のことはわかりませぬが」
百地も夜の星を見て言う。
「真田殿がそう言われるなら」
「確かだと」
「そう感じました」
「左様ですか」
「はい、しかし」
「しかしですか」
「よからぬことはです」
どうにもとだ、百地もその顔に不安を宿らせて言った。
「起こらぬ方がよいですな」
「全くです」
「そう願います」
「この世に凶兆は常に転がっていてです」
「それが芽になりますな」
「それも世の中です」
幸村はふとここで彼の義父だった大谷のことを思い出した、業病に罹り苦しんだ彼のことをだ。
そのうえでだ、こう言うのだった。
「ですから」
「それで、ですな」
「何かが起こります」
「それが悪いことでも」
「このことが気になります、しかしです」
「我等はここにいますので」
霧隠は幸村に話した。
「ですから」
「うむ、何かをすることはな」
「出来ませぬ」
「ましてや幕府のことじゃ」
「余計にですな」
「幕府は心ある方が多いにしても」
それでもというのだ。
「その心ある方に何かあるのなら」
「残念なことですか」
「近頃四天王方々も代替わりが進んでおりますな」
ここで百地はこのことを言った。
「四つの家全てが」
「はい、どの方々もお亡くなりになられました」
幸村も百地にこのことを答えた。
「関ヶ原まで活躍された方々は」
「そうなられましたな」
「人は必ず去るもの」
例え誰手もというのだ。
「ですから」
「それで、ですな」
「どの方もです」
千代の者達全てがだ。
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