巻ノ百二 百地三太夫その五
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「よいな」
「確かに。気配まで消さねば」
「目を誤魔化すだけではじゃ」」
「足りませぬな」
「人は目だけではない」
「耳もありますな」
「そして気も察する」
それ故にというのだ。
「だからこそじゃ」
「そうしたことまで気をやる」
「そうして戦うのじゃ」
これが百地の言うことだった。
「よいな」
「はい、それでは」
「霧は目だけではない」
「あらゆるものを隠す」
「そうした術じゃ」
これが百地の言う霧の術だった。
「御主の霧の術も見事じゃが」
「目だけですか」
「相手のそれだけをくらましておる」
「そしてそれでは足りぬ」
「相手の六感の全てをじゃ」
「くらましてこそですな」
「真の霧の術じゃ」
そうしたものだというのだ。
「そして御主はな」
「それが出来るのですな」
「だから言うのじゃ」
そうしたことまでというのだ。
「今な」
「そうですな、では」
「御主はまだまだよくなる」
百地は弟子に強い声でこうも言った。
「だからわしもじゃ」
「ここまでですな」
「教えておるのじゃ」
そうだというのだ。
「御主ならばこそじゃ」
「それでは」
「そして霧はじゃ」
霧自体についても話すのだった。
「ただ隠れる、くらますだけではない」
「毒ですか」
「霧に毒を含めればどうなる」
「かなりのものとなります」
霧隠は百地にすぐに答えた。
「広まるものですし」
「それも使う術は知っておるな」
「はい」
「そのことも考えよ、ただしじゃ」
「自身や共に戦う者達のこともですな」
「考えてじゃ」
そしてというのだ。
「使うことじゃ」
「そうした霧はですな」
「この術はしっぺ返しもある」
百地が今言ったそれがというのだ。
「だからじゃ」
「使うべき時に使い」
「無暗に使わぬことじゃ:」
それが大事だというのだ。
「くれぐれもな」
「承知しました」
「これは心ある者だけが使う術じゃ」
「若しそうでなければ」
「おぞましい術となる」
そうなってしまうというのだ。
「そこは気をつけるのじゃ」
「皆殺しの術ですな」
「強い毒を霧に含めて使えばな」
まさにその時はというのだ。
「そうなる、城ですらもじゃ」
「まさにその毒霧を使えば」
「皆殺しに出来る、しかしな」
「無暗に敵を殺す術は」
「御主達が使う術か」
「いえ」
即座にだ、霧隠は首を横に振って答えた。
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