巻ノ百二 百地三太夫その一
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巻ノ百二 百地三太夫
幸村はこの日霧隠を呼び彼に言った。
「さて、御主もじゃ」
「修行をすべき時ですか」
「うむ」
その通りだとだ、幸村は霧隠に答えた。
「それでじゃが」
「はい、それで何処の誰のところに参るのでしょうか」
「御主もよく知っておる御仁じゃ」
「と、いいますと」
「これでわかるな」
「あの方ですか」
「うむ、左様じゃ」
「確かあの方は」
霧隠は幸村が話したその者について彼が察することから述べた。
「織田家の伊賀攻めの時に」
「死んだとじゃな」
「聞いていましたが」
「それがじゃ」
「実はですか」
「うむ、生きておられてな」
それでというのだ。
「今は伊賀におられるとのことじゃ」
「伊賀の」
伊賀と聞いてだ、霧隠はすぐに幸村に険しい顔で言った。
「あちらは」
「うむ、今の伊賀はな」
幸村もそれは知っていて霧隠に言う。
「藤堂殿がおられてな」
「しかも伊賀者達のまさに故郷」
「入るのはじゃな」
「よくありませぬが」
藤堂高虎は今や家康にとって下手な譜代の者以上に頼りになる者となっている、彼の腹心中の腹心と言っていい。
それでだ、霧隠は伊賀者達のことも会わせて幸村に言うのだ。
「それでもですか」
「うむ、伊賀といってもな」
その者はその国にいるのは確かだがというのだ。
「それでも奥深くでな」
「藤堂家も伊賀者達ですら」
「到底じゃ」
それこそというのだ。
「知らぬ位にな」
「そうした場所におられますか」
「だからこそじゃ」
「我等も行ける」
「例え伊賀であってもな」
「確かにです」
霧隠は幸村の言葉を受けて述べた。
「山の深いところに行けば」
「それこそ並の忍の者ではじゃな」
「行く様な場所でないところもあります」
そうだというのだ。
「どの国にも」
「伊賀も然りじゃな」
「はい、では」
「そこに参ってな」
「そのうえで」
「御主の修行を頼みたいのじゃ」
「左様ですか」
「御主のその霧の術をじゃ」
霧隠が最も得意としているそれのというのだ。
「磨いてもらいな」
「より強くなり」
「力にしてもらいたい」
「それで今からですか」
「行きたいがよいか」
「殿のお言葉ならば」
一も二もない、霧隠は幸村に即座に答えた。
「是非共」
「そうか、ではな」
「はい、これよりですな」
「すぐにここを発つ」
九度山をというのだ。
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