巻ノ百一 錫杖の冴えその七
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「ですから」
「それでか」
「はい、そこまではです」
悟りまではというのだ。
「望んでおりませぬ」
「ではやはり」
「はい、それがしは殿の家臣です」
幸村を見て強い声で言った。
「その立場は絶対ですから」
「それ故にじゃな」
「悟りを第一にはしませぬ」
「欲は張らぬか」
「欲は十分張っております」
「だから真田殿と共にか」
「生きて死にたいのです」
己の欲をそちらに集中させているというのだ。
「そうなっております」
「そういうことか」
「左様です」
こう後藤に答えた。
「拙僧は」
「弟君もじゃな」
「ひいては十勇士全てが」
彼等の全てがわかっているからこその言葉だった。友であり義兄弟であり長きに渡って共にいるからこそ。
「左様です」
「そうした欲が強いか」
「富や位には興味がありませぬが」
「強くなりじゃな」
「はい」
そしてというのだ。
「殿と共に」
「そうした欲か。確かに強いな」
「後藤殿もそう思われますな」
「確かにわかった」
後藤もこう答えた。
「わしもな」
「それは何よりです」
「ではな」
「はい、それでは」
「また機会があれば会おう」
後藤ににかりと笑って清海に告げた。
「そして出来ればな」
「その時が来れば」
「轡を並べて戦おう」
共にというのだ。
「そして敵同士になっても」
「それでもですな」
「武士として恥じぬ戦をしよう」
そうしようと約するのだった。
「是非な」
「さすれば」
「それでは」
幸村も言った、ここで。
「お互いに武士として」
「恥じぬ様にしようぞ」
「それでは」
双方笑顔で別れた、そしてだった。
幸村主従は九度山に戻った、するとだった。幸村はすぐに十勇士達に対してこうしたことを言った。
「後藤殿のことじゃが」
「殿がこれまで清海と共に会っていた」
「あの方ですな」
「天下の豪傑といいますが」
「あの方がですか」
「うむ、あの方は見事な方じゃ」
天下の豪傑だというのだ。
「噂に違わぬな、しかしな」
「しかし?」
「しかしといいますと」
「残何ながらな」
こう前置きして言うのだった。
「あの方は一つの家の下にはおられぬだろうな」
「黒田様が横槍を入れられて」
「それで、ですな」
「どうしてもですな」
「一つの家にはおられませぬか」
「長い間は」
「幕府か豊臣家でもなければ」
それこそというのだ。
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