第六章
[8]前話
「こんな野蛮で残虐な奴等にうちの子を傍に置いていられるか」
「では二度と子供を取り替えるでないぞ」
「誰が二度とこんなことするか」
彼の言い分だけ言ってだ、そしてだった。
トロルは自分の子供のところに飛んで行ってだ、泣いている我が子を揺り篭から出していとおしげに抱いてそうして言った。
「可哀想に、では帰ろう」
こう言ってだ、我が子を抱いて何処かに消えた。そしてだった。
そのうえでだ、揺り篭の中には。
トマットソンによく似た顔の人間の赤子がいた、ヘルナイゼンはその赤子を見て二人に微笑んで尋ねた。
「この子がですね」
「はい、そうです」
「私達の子供です」
二人はヘルナイゼンにすぐに答えた。
「ペーターです」
「間違いありません」
「そうですか、それは何よりです」
「いや、しかしです」
「まさか本当に妖精がいたなんて」
「昔から伝えられていることにはそれなりの根拠があります」
ヘルナイゼンは妖精のことも話に出した夫婦に穏やかな声で答えた。
「科学で説明出来なくても」
「こうしてですね」
「実際にいて悪戯もする」
「そういうこともあるんですね」
「こうして」
「そうです、そしてどうするのか」
実際にいる妖精が悪戯をした時はというのだ。
「そこも覚えておくといいかと」
「そうですね」
トマットソンは今は否定せず肯定する顔でヘルナイゼンに応えた。
「よくわかりました、妖精は実際にいて」
「はい、悪戯をしてくる」
「そうしたことがよくわかりました」
「私もです」
ビルギットも夫の横からヘルナイゼンに言ってきた。
「こうしたことは本当にあるんですね」
「そうだね、否定出来ないね」
「全くよね」
ビルギットは今度は夫に応えた。
「科学的じゃないというだけで否定しても」
「何にもならないね」
「そうだね」
二人共このことがわかった、そしてこの時からだ。
トマットソンは迷信だからと言って昔から伝えられていることを無闇に否定しなくなった、科学万能主義でもなくなり聖書も読む様になった。そうした存在を否定しなくなりヘルナイゼンとも親しく話をする様になった。そうしてペーターにも妻と共に妖精の話をする様になった。彼に起こったそのこともまた。
子供を戻すには 完
2017・2・23
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