全ての球児たちのため
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頭の剛が打席に立つ姿は明らかにこれまでのそれとは違っていた。まるで全身からプレッシャーを放っている猛獣のようなその雰囲気。そしてその初球。
カキーンッ
鋭いスイングから高々と舞い上がったその打球は、バックスクリーンに直撃する勝ち越しホームラン。
「絶望から歓喜に湧くアルプススタンド。でも、それとは対照的に剛さんには笑顔はないわ。そしてベンチもネクストの打者も、ガッツポーズすることなく次のプレイに入ったの」
何かがおかしいと悟る観客たちだったが、その原因が何なのか皆目検討も付かない。その後の試合は追い上げムードに湧いていた山堂学園を沈黙させるものだった。
剛のホームランを皮切りに八番打者までが連続でヒットを放ちここまでに六得点。さらには打撃にも定評があり、投手登録されている最後の一人である佐藤に代打を出す余裕っぷり。
結局この延長10回に八点を奪う猛攻を見せ、最終回はショートであるキャプテン楠田をマウンドに送り三者凡退。結局16対8の大勝で東日本学園が勝利を収めたが、三連覇を目論む山堂学園相手に大金星だったはずなのに、剛たちに笑顔はなく、冷静に整列、校歌を歌うとアルプススタンドに向かって今まで溜め込んできたものを発散するかのように大きな声で挨拶をし、グラウンドを去っていった。
試合後の勝利監督インタビュー、監督は選手たちを労う言葉で彼らに感謝の意を述べる中、隣でインタビューされていた決勝点を放った剛の言葉は今後の高校野球を大きく変えるものだった。
『なぜ観客たちは何をしてもよくて我々球児たちにのみ制約があるのでしょうか?』
紳士的な態度を求められる高校球児たちに対し、それを観戦する観客たちはどうなのかと問い掛けた。実はこの前年にも同じような出来事があった。序盤から押せ押せでどんどんリードを広げたその高校は、次第に追い上げてくる相手を振り切ろうとした。九回2アウトでまだ点差もある。それなのに面白いもの見たさに観客たちはタオルを振り回し、追い上げる側を応援し続けた。結果、投手は本来の投球ができず逆転負け。しかし、それだけでは済まない。
その翌日敗戦した高校と同地区の高校が似たように大量点差を追い上げる意地を見せた。しかし、その時の観客たちはただ冷静に見つめているだけ。結局その高校の追い上げは届かず敗戦を喫した。
さらに付け加えるならば、その二つの高校は東日本学園のエース、佐藤の出身地区の高校だった。
その出来事をビデオで見ていた佐藤は憤りを感じた。「なぜ同じ高校球児の中で差別が生まれるのか」と。
そして今回の完全アウェイ空間。それを見た彼は観客への憤りからマウンドに上げることを監督に求め、相手の勢いを粉砕。さらにその出来事を知っていた剛が高野連に今後のあり方を考えさせるためわざと予告ストレートで挑発
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