全ての球児たちのため
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ら気が付いていた。
次第に大きくなるアルプススタンドの応援に同調するように声を出し、次第にはタオルまで回している。しかもそれは投手の目に入るバックネット裏にいる子供たちにまで及んでいた。
「この数年前からバックネット裏に小中学生が入る『ドリームシート』が設けられました。未来の甲子園で活躍する子供たちのために、近場で高校球児たちのプレイを見てほしいと」
「でもまだ未熟な子供たちはその行動の善悪をわかっていない。球場全体、おまけにバックネット裏の子供たちまでタオルを振り回し片方のチームを応援したら、ただの高校生が平常心を保てるわけないわ」
さらには審判も普通の人間。会場の雰囲気やそのチームの勢いで判定がぐらつくことなんてザラにある。先程の際どい判定はそれが原因で起きたものと言えた。
「もうこんな状況では甲子園初登板の水谷さんがまともに投げられるはずがありません。続く二球も大きく枠を外れるボール球。剛さんも必死に止めましたが、ノーアウト満塁の3ボール。球場は全て敵。内心では勝てないと思っていたのか、投手に声をかけに行くこともしませんでした」
ベンチも守備陣もすでに諦め気味に、目に涙を浮かべる者もいた。この試合を見ていた全ての人が試合の終幕だと思ったその時、東日本学園は思わぬ行動に出る。
『あっと?東日本学園ここで投手を替えますか?』
突如タイムをかけブルペンからマウンドに向かって駆けていく小さな背中。そこには1と掛かれており、鋭い眼光を光らせた少年が涙を浮かべ肩を震わせている先輩からボールを受け取る。
「何考えてるの!?普通ならこんな場面で投手を変えるなんてあり得ないわよ!!」
「そうなんですか?」
「うん。せめてノーアウト満塁になったところで、最低でも変えておかんと・・・一球もボール球が許されない状況からなんて投げられるわけないよ」
規定の投球練習を行っている最中も、会場中の山堂学園への応援は止まない。それを終え剛はマウンドに向かうと、何やら怒っている表情の佐藤の言葉に首を傾げ、ポジションへと戻っていく。
「ピッチャーの佐藤さん、すごい怒ってるよね?」
「いつもこんな感じの人なの?」
「それは違うよ!!」
バンッと机を叩いてしまった後、大慌てで手を引っ込める花陽。彼女はアワアワした後、一つ咳払いをしてからことりと凛の言葉に答えた。
「佐藤さんは普段はすごく優しい人なの。マウンドでも守備に声をかける時はずっと楽しそうに笑顔を浮かべているんだよ」
「まぁ、打者に向き合う時は真剣な顔になるけど、ここまで怒っているのは初めて見たわよね」
絶望的な状況でマウンドに上がったのに一切ビビる様子もなくサインを受け取るエース。彼はうなずくと、セットポジションから足を上げ、モーションに入った。
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