第三章
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「さあ、これで行きなさい」
「足袋まであったのね」
「勿論草履もあるわよ」
「ここまでしなくていいのに」
勿論下着も湯文字にされた。日本古来の下着に。上はさらしだ。
「あの服でいいのに」
「駄目よ。あんたも年頃の娘なんだから」
「振袖でないと駄目っていうのね」
「そうよ。元旦はこれよ」
「それでこの振袖でお参りになのね」
「行きなさい。いいわね」
「動きにくいけれど」
「多少は我慢しなさい」
母はまた娘に強く言う。
「折角の元旦なんだから」
「わかったわよ。けれど着物って」
「駄目とか言わせないわよ」
「そうは言わないけれど着たのって」
ふと振り返ってみる。これまで着物を着た回数を。そして最後に着たのは何時だったか。
しかし思い当たらない。それでこんなことを言った。
「七五三が最後だったんじゃ」
「あんた浴衣も着ないしね」
「夏祭りの時よね」
「だから駄目なの。お正月は寝正月で夏祭りでもシャツに半ズボンとかでしょ」
「夏はそれが涼しいから」
未祐は暑いことも苦手だった。基本的に不精なのだ。食べること以外については。
「だからだけれど」
「これからは駄目よ。ちゃんとね」
「夏祭りもなの」
「そう。ちゃんと浴衣でね」
「ううん。年頃だから」
「そう。ちゃんとしなさい」
「わかったって答えるしかないのね」
未祐は憮然とした声で答えた。そうしてだった。
渋々とした感じで家を出て春香との待ち合わせ場所である駅前に来た。するとだ。
春香も振袖だった。赤地でこちらは青い菫に蔦を飾っている。帯は白だ。だが背が高くスタイルがいい分未祐のそれより映える感じになっている。
髪型は変わらない。その彼女がこう言ってきた。
「あけましておめでとう」
「あけましておめでとう」
まずは元旦の挨拶からだった。
「今年も宜しくね」
「こちらこそね」
「それでね」
挨拶が終わってからだ。春香は未祐に言ってきた。
「あんたもそれにしたの」
「振袖のこと?」
「そうなのよ。あんた着物着たのね」
「普通にジーンズとかで行くつもりだったのよ」
未祐はこのことを春香に話した。
「けれどお母さんに言われてね」
「着たとか?」
「着せられたのよ。あっという間に」
「あんたのお母さん着物の着付けできたの」
「そうみたい。特殊技能よね」
「ええ、それで商売できる位ね」
着付けも今ではそうなっている。
「それができたのね」
「意外っていうか。とにかくね」
「その格好にさせられたのね」
「そうなのよ。本当にあっという間に」
「けれど似合ってるわよ」
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