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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十五話 報告と対策と献策
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の将校官吏らへの指示、そして時にはひどく評判を落とした者の懲罰と庇護――矛盾しているようだがけしてそうではない、護州閥を維持する上では護州を奉ずる者を見捨てず、さりとて評判を落とした者を過剰な地位に就けることもせず、その微妙な均衡を保たねばならない。
 英康がここまで痛手を受けながら護州の勢力を維持することが出来たのは、彼個人がこうした人材の評価と処理の才に長ける――というよりも感性が適していたからだ。
 他者への同情心というものがとことん欠落していながら身内に対する情理を解し、人を愛する人間だからこそであった。他者の情理に基づく行動を理解はしても共感はしない。親しき人間を愛しながらも配下の人間を冷徹そのものに秤にかける事が出来る。守原英康を護州の棟梁代行たらしめるものはそれであった。平時においても稀代の政治家である篤胤に対抗し、護州の権勢を維持できた事からもその能力は一定以上の評価をするべきだろう。
――閑話休題――

「近衛は掃き溜めだ。衆民の、将家の、将家にも衆民にも成れない者の。だからこそ――」
 水晶杯の中身を臓腑に流し込む。
「だからこそ今回のような厄介事が起きる。西原本家から恨みを買ってまで六芒郭を見捨てよというわけにも行くまい、否、馬堂がこのことを掴んでいるのならば情報は既に漏れている、西原の係累を切り捨てるとなると、駒城の肥大化を理由にまとめていた宮野木や安東に余計な不信感を招きかねない。馬堂がこちらに情報を流してきたという事はそういう事だ」
 それはそうだろうと道鉦も首肯した。総務課理事官を務めている者がいるという事は閨閥をまたいだ情報戦においては無類の強さを誇る。そしてこうした情報戦は有事における派閥抗争の中でも極めて致命的なものになりうる。
閨閥をまとめるという事は重臣たちを庇護し、見捨ててはならないという事だ。そして他の五将家閨閥と組むとなるとその信用こそが政治戦の要となる。その点から見れば天狼での大敗以上にその後の敗戦処理が守原英康にとっては痛恨の失策であった。

「俺は護州の棟梁を継ぐ身だ。たまにはそれらしく振舞ってみるのもいいだろうよ」

 “あるべき筋書き”よりも少しばかり早く護州を担う者の翼がゆっくりと羽ばたき始めていた。

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