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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十五話 報告と対策と献策
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作はけして何もかもが思い通りになったわけではないが、それでも十分な効果を上げている。何かをなすわけでなくとも強固な団結力を誇る五将家の重臣団から情報が入ってくるだけでも十分だった。

「それ以上に勘案なさるべきなのは強くなった方法です。駒城は外敵に抗して強くなっています、平時に競っていた時とはあらゆる点で異なるかと」
 草浪が痛切とも取れる声を上げるが、定康の反応はそれに反比例するかのように熱を失ったものだった。
「そうだ、新城も馬堂の倅も功を上げている相手は〈帝国〉だ。だが大勢はかわらん。虎城に籠っても先延ばしでしかない――冬だ。冬の四月を稼ぎ、守原が手を打つしかない」
 草浪は自分に向けられた視線が探るようなものになっている事に気づいた。
「道鉦、六芒郭が墜ちるのはよくない、だがあの浮浪児上がりが勝つのも良くない。ならばどうする」

「守原が〈帝国〉軍に勝ち冬に繋がる戦果を挙げる。それしかありません」
 軍人としての行動と守原陣営の政治闘争に携わる草浪家当主としての行動を擦り合わせる為にはそう答えるしかない。そしてそれが相反するものとなったのなら――
 現実から離れようとする思考を押しとどめようと深呼吸をする。
「であろうな。問題は方策だ、道鉦。皇龍道を保持する兵力を減らす危険を侵さず。誰の目にも分かる戦果を上げる。〈帝国〉軍を相手にこの条件を達成できるものがあるか」
 そして“若殿様”の出した方針は道鉦の望むものからは幸い離れたものではなかった。
「‥‥‥駒州軍の動き次第では」
 ほう、と息を吐きながら答える。
「では可及的速やかに大まかで良いので絵図面を出してくれ、
龍州軍は貴様の好きなようにしろ。叔父上が認可したら必要なものは可能な限り用立てるようにす」

「若殿、よろしいのですか?」
 予想外もいいところだ。考えてもいなかった人間が自分に投資をするという事だ。
「妥当な案ならばな」
 定康の返事は曖昧なものだったが今の草浪にはそれで十分だった。
「承知いたしました。それでは私の方で立案を進めます」

「素案は護州軍参謀部にも回しておけ、評価と修正はそちらに任せる」
 そして金勘定を確認するかのような口調で言葉を継いだ。
「あぁ今回の西原の件で露骨に裏をとった以上、俺達はもう誰も彼も足抜けできん。ただでさえお忙しい叔父上は皇都からそうそう動けなくなるだろうよ。西原への対応を疎かにしたら皇都で回している何もかもが滅茶苦茶になる可能性すらある――故に貴様の案は俺が音頭をとる事になるだろう」

 定康の言う通り、北領から戻って以来、英康は皇都からろくに動けないほどに忙殺されている。北領経営の破綻によって大混乱が発生している護州の経済再建、北領鎮台の吸収によって規模が膨らんでいる護州軍の軍制再編と派閥
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