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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十五話 報告と対策と献策
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 龍州軍司令部の司令官執務用大天幕に草浪が足を運んだのは実に二日ぶりであった。本来の司令官は滞在用の家を買い上げてからは個人副官と籠っている。すでに参謀たちの間では“体調不良は長引くであろう”と見込まれていた。
 そして本来は司令官が座す椅子に座っているのは守原定康少将――護州の若殿だ。その背後には個人副官が控えている。本来の主よりも絵面は様になっているが――その中身については重臣である草浪ですらその評価は定まっていない。
「――そうか。西原の件は事実か」
 “新城支隊に五将家の一角、西州公の係累が配属されている”と馬堂家から守原に流されたのである。
「はい、こちらで調べた限りでも相違はありません」
 草浪は可能な限り当惑を表さないよう努力しながら返答した。守原定康が仮にも前線の軍司令部に姿を現すなど初めてではないだろうか。
最高責任者である英康は情報の真偽よりも唐突に重要且つ真偽不明の情報を流した馬堂家の意図の方が重要であると考え、情報の真偽を慎重に――誰にも気取られぬように調査するべきだ、と判断しようとした。
それに定康は反対し、早急に情報の真偽を調査し、それをもとに行動方針を確定するべきであると主張し、皇都を離れ、皇龍道の護州軍前線部隊を視察し、そのまま龍州軍司令部を訪れている。草浪の知る守原定康の行動原理とは些か以上に異なっている。
そもそも叔父の政治的な決断に追従し続けていたからこそ英康に護州の実権は集約されているのだ。異例に過ぎる。

「馬堂も澄ました面をしているが大した博打を打つものだ――道鉦、お前はどう見る。あの出来損ないの要塞で20万の軍勢を止められるか、あの御育預とやらにそれだけの力量はあるか」
 “若殿様”の問いかけに秀才参謀としての思考を取りまとめながらも草浪家当主としての草浪の頭脳もまた同様の速度で回転し続けている。

 個人副官を筆頭に身内に甘いという点では英康以上に極端な男だ、あるいは知っている者が死んだからか――それとも実権を握る叔父が大敗したからか、

「北領での戦いで大隊主力を率いた遅滞戦、少数部隊での街道封鎖、そして龍口湾における本営の奇襲。部隊指揮官としての手腕は疑いようがありません」
 或いは武功による発言権の拡大というものに初めて接したからか。何はともあれ眼前の男を過去のように政局にしか興味を示さない退廃的な男と評価し続けるのは危険だろう。

「そうか――」
 漂う酒精の臭いはいつのまにか散っている。定康の目は冷え切った川底にある苔むした大岩のように冷厳であった。

「駒城家から英雄が出るのは好ましくない。馬堂や佐脇のような重臣の間から杭が出るならばやりようがあるがあれの後ろ盾は駒城の本家だけだ。駒城が強くなりすぎるのは護州の為にはならない」
 馬堂、佐脇を通じた工
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