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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十五話 報告と対策と献策
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の善意を保ったまま篤胤が采配を任せても良いと判断した事を忘れ、保胤の持つ能吏としての才覚に気づかぬまま無力化された人間は少なくない。それは重臣団の人間であればだれでも知っている事だ。

「ありがとうございます、閣下。西津閣下には大変お世話になりました。多くのご厚情もいただいております。西原様にも西津様を通じてですが」

「咎めているわけではない、お前を大佐につけることを決めたのはただ戦上手だからではない。馬堂の名を負えると期待しているからだ」
 今のところは許容範囲内の独断である、と言外に告げているのだろう。

「はい、若殿様」「馬堂は駒城より身が軽い――駒城が動けない厄介事を任せざるをえない」
 その通りである。内務に通じたものが多い馬堂家は陪臣格の中でも殊更にそうした役割を負ってきた。
 豊長と豊守は分野は違えども馬堂家における白眉ともいえる存在だ。豊長は武官から憲兵隊の最古参として組織の創設に尽力し、〈皇国〉軍のと駒州軍の諜報網を整備した。
 豊守は現在、皇都において軍政の総合調整を担う一人として閨閥の間を駆け抜け独自の伝手をあちこちに作り上げている。
 どちらも人格的にも能力的にも全く異なるが極めて”馬堂的な”人間である。
「父のようには振る舞えません、祖父のようにも」 
 であるからこそ豊久は――前世の記憶を持っているからこそ余計に――その偉業の後継者としての重荷を感じていた。
「当たり前さ。世情だって変わる、そしてお前と豊守は親子であっても別人だ。違うようにふるまうのは自然な事だ、自分の経験と良識を信頼したまえ。その上で周りを観ることを忘れないことだ」 「はい閣下」
 保胤は微笑浮かべ、細巻を吹かす。
「――さて、本題に入ろう、君の昇進が九月付けで正式に通知されるがそれを兵部省で受けてもらうつもりだ」

「皇都にですか?そうなると第十四聯隊は」

「引き続き君の聯隊のままだとも、他に任せられる人間はまだいない。大辺少佐に任せるとしても今少し時間がいるだろう、部隊指揮の経験が必要だ」

「――そうですね」
 肩の力を緩める。ほんの僅かではあるが聯隊を取り上げられるかもしれない、と疑う程に後ろめたいことをしているのだ、と自戒する。

「再編と補充の定数が決まったら連隊全体に10日ほどの休暇を出すつもりだ。その間にこちらで手はずを整える」

「そうなりますと私は」

「君は一時、皇都に移動して待命、九月四日の昇進及び独立混成第十四聯隊長への正式任命を受ける――弓月の御令嬢にも報告しなさい、どうせ手紙も碌に書いていないのだろう?」

 豊久は細巻の煙を吹かそうとし――激しく咽混んでしまった。




同日 午後第一刻 蔵原市 龍州軍司令部 司令官天幕
 戦務主任参謀 草浪道鉦中佐

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