01 夏の午後
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する映像が流れれば「人権侵害」などとのたまうヒステリックな集団が簡単に現れる。
武道は廃れた。
今は弁舌が世界を動かし、金が潤滑油として潤う事が大事な世の中だ。
堂本はそういう時代の落ちこぼれを自負していた。
社会的には恵まれた落ちこぼれ故に高望みもせず夢も見ないと言い切る姿は、柳にとって大人になる物悲しさを感じさていた。
柳自身、師範として剣道場を任された身とはいえ、精神鍛錬が必要と言われる警察に重宝されるが、それ自体が特別現代を生きるのには不必要な力の鍛錬とも言われている。
広く明る楽しく、それでいて尻すぼみで夢も見られない現実を10も年若い堂本が知っている事が物悲しいと考えると同時に「もう少し」もう少し彼は頑張れるのではという後押しをしたくなってしまう
この現実に一矢報いる意見も有りと、溜息タバコを口から吐いてみせる柳は思い出したように紙を取り出した
「そうそう、まー俺には関係ないんですけどね。捜査一課で大活躍する予定の堂本さんには良いお土産になるかなと」
胸ぽけから取り出した紙。
真っ黒な長方形の紙、大はさにして警察手帳より一回り小さい。
紙の上方には紐を通す穴があり、下方部分に薄暗い赤色で均一に描かれる炎。
「なんっすかこれ?」
つまみ上げた紙に吹き出すような笑み。
「なんだろうね、首塚詣の人が落としたいったので……紙切れ1枚の事だし取りに戻るようなものでもなさそうなんで持ってきちゃったんですよ」
「窃盗ですね」
「あちゃ、俺が逮捕されちゃいますか?」
「冗談ですよ、てかこれってダンダラ模様に見えません」
言われてみれば見えなくもない。
かの新撰組が身につけた「隊衣」にあった模様。
「新撰組は知っているんだね」
「厨二病の登竜門に必ず居る存在じゃないですか!! 俺ぇ、土方歳三とかかっこいいなーって思いましたよ。てかあの写真の服とか欲しかったですもん」
平将門より土方歳三。
確かにわかりやすい、新撰組は歴史のあだ花。
今や彼らがどんな活躍をしたかを知る若者は少ない、名前こそ新撰組であとはファンタジーのような世界を闊歩する存在となった彼らは思春期の少年少女にとってひそやかな憧れなのかもしれない。
柳は今時を思い浮かべる自分を「年をとったな」と内心苦が笑いながら紙切れを手渡した。
「捜査の糧になったら飯でもおごってくださいよ」と。
炎逆巻くダンダラ。
それが日本を揺るがす一大怪奇事件へと繋がるなど、2人ともつゆほどにも思わなかった夏の午後
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