スラッガーと守備職人
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ん?」
名前を呼ばれた天王寺は立ち止まり後ろを振り返る。そこにいた息を弾ませている少女を見て、そちらを向かって手をあげる。
「西木野さんだっけ?どうしたの?」
まだ生徒の名前を覚えて切れてるか自信がなかった天王寺は相手を確認しながら用件を聞こうとする。それに対し真姫は自分のことを覚えていないことにショックを受けて俯いていた。
「・・・私のこと、覚えてないんですか?」
「え?ごめん、違った?」
悲しそうな声でそう言われた青年は自身の記憶が間違っていたのかと慌てていたが、真姫はそうじゃないと首を振る。
「西木野って聞いて、思い出しませんか?11年前のパーティを」
「ん?・・・あ!!」
そこまで来てようやく彼は思い出した。以前一度だけ会った、その少女のことを。
「よく覚えたね、一回しか会ったことないのに」
「私は何度も見に行きましたよ、先生の試合」
天王寺の高校時代、甲子園で活躍した彼に憧れ、親に内緒でよく試合を見に行っていた。そのことを話すと、彼は恥ずかしそうな表情を浮かべる。そして彼女は、ずっと気になっていた質問をぶつけてみた。
「なんでプロにならなかったんですか?」
本来なら高卒ルーキーとして話題をかっさらうだろうと思われていた天王寺が、大学進学を選択し、さらには大学卒業後には教師になっていたこと。それがあまりにも予想できなかっただけに、彼女は聞かずにはいられなかった。
「あれ?両親から聞いてない?」
「何をですか?」
「俺が走れなくなったこと」
訳がわからないといった表情の真姫を見て、彼女の両親が気を遣ってくれたのだと彼は理解した。天王寺はケガをしたあの時、親同士が仲の良かった西木野病院に入院していた。だから真姫がそこの跡取りだと聞いた時、てっきりケガのことも聞いているのだと思っていた。
「それなのに野球部の顧問になったんですか?」
「あいつらは俺のこと知らないみたいだしな。それに・・・高校野球は俺の一番の思い出だから」
輝かしい記録、悔しい記憶、うれしい記憶、そして・・・後悔してもし切れない記憶・・・そのすべてが彼の思い手であり、野球が出来なくなった今の生きる活力となっている。
それを理解した真姫はある決意をした。
「だったら、私が先生の分まで野球をしてみせます」
真っ直ぐな瞳で青年を見上げるその目に、迷いは感じられなかった。天王寺はそんなことを言ってくれる人物がいたことに、思わず笑みを溢す。
「ありがとう、期待してるよ」
こうして、にこと真姫、二人の少女が新たに野球部へと入部した。正式に部活に昇格するまで、あと二人。
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