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戦姫絶唱シンフォギア〜貪鎖と少女と少年と〜
第四話 覚悟を言葉に換え――
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もない彼の心中の一欠けらを察してしまったのだから。


「鳳郷介さん」


 背後から声がした。声の主は紛れもない彼女であった。常在戦場を銘打ち、その切っ先を無限獄より湧きいずる餓鬼共へと向けるその姿を人は――。

「風鳴……翼」

 日本古来の守護者――現代の“防人(さきもり)”と呼ぶ。

「歌姫だと思っていたが、刃で舞う剣姫(けんき)だったのか」
「……幼少の頃よりこの身は一振りの(つるぎ)として研鑽してきました。剣姫などという称、受け取るにしては些か荷が重すぎます」
「風鳴……」
「答えてください。鳳さんは何故、あの場に居合わせていたのですか? 彼女――マリア・カデンツァヴナ・イヴが一度、観客を解放していたはずです」

 ふざけることは許されない――彼女の眼からはそんな意志をひしひしと感じ取っていた。
 実際、風鳴翼の心中は穏やかではなかった。一般人に対してあってはならない感情だが、砂粒程の“怒”すら握り締めてしまっていたのだ。一度目は仕方なくも、二度目は自らの意志で死地に赴いてきたその神経が、彼女には理解出来なかった。
 相対する鳳はそんな彼女の言葉の重圧をひしひしと感じていた。なまじ戦場(いくさば)に身を置いてしまっただけに、常人の遥か数倍、そのニュアンスを事細かく察することが出来てしまったのだ。

「……バンダナを回収しに行っただけだ」
「バンダナ?」
「ああ、命より大事なモノと言っても過言ではない。……ああ、言葉が悪かった。命を平然と張れるくらいには、大事なモノなんだよ」
「……いくら鳳さんといえど、平然と命を張れるという言葉は聞きたくはありませんでした」
「……何だと?」

 鳳のこめかみにぴしりと緊張が走る。言葉には出さず、彼は翼に続きを促した。
 そして放つ。自分よりも歳が下の風鳴翼が、決して切り返すことの出来ぬ必殺の太刀を。

「鳳さんは……《《一人であの場を生きて脱することが出来たのですか?》》」
「っ……!」

 たったの一言。それだけで鳳は瞑目する。
 そうなのだ。本来ならば自分は《《あの場で何回死んでいたか分からない》》。あの黒服の人が、あの鎖の少女が、決して純然たる正義感ではなかったのだろうがそれでも助けられたのだ。
 何も言わない鳳の表情を見て、翼はゆっくりと言葉を紡ぐ。

「たまたまあそこに鳳さんを助けてくれる者達がいたから、今の貴方がいるのです。……ならば、鳳さんは一人であの死線を潜り抜けられるという確固たる自信を持ち合わせていましたか? 一度は見逃された死を、再び引き寄せるような真似をするほどに」

 ちらりと、弦十郎の方を見ると、彼は黙って自分を見ていた。どう返すのか――そんなことを言外に問うているようで。

「……ああ、認め
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