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真田十勇士
巻ノ九十八 果心居士その三

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「今もそうお考えですし」
「左様ですな」
「しかし茶々様は何か異様に幕府を憎まれています」
「家臣である筈にと」
「それで大御所様を特に憎まれておるとか」
「夜な夜な藁人形を打たれているとも聞いています」
「藁人形か」
 その呪いのことは板倉も知っている、それで呆れた顔になりこう言った。
「我等にもこの話が伝わっておるとなるとな」
「はい、誰かに見られていますな」
「間違いなく」
「そうなっていますな」
「だからこそこの話も伝わっていますな」
「我等の耳にも」
「あの呪いは誰かに見られては意味がない」
 板倉はこう言った。
「逆に自分に返って来る」
「その呪いがですな」
「そう言われていますな」
「そうじゃ、そもそも人を呪えば穴二つじゃ」
 板倉はこの言葉も出した。
「相手に向かわず自分に倍になり返る」
「そうしたものですな」
「呪いというものは」
「そうしたさもしいものですな」
「そうじゃ、人を呪ってもにもならぬ」
 所詮はというのだ。
「それもおわかりになられぬとはな」
「嘆かわしいですな」
「太閤様がおられればその様なこともなかったですが」
「せめて関白様がおられれば」
「大和大納言様がおられれば尚更でしたが」
「その様なこと大御所様が聞かれてもな」
 茶々が自分に呪いの藁人形を打っているとだ。
「あの方も何もされぬな」
「その様な小さなことではですな」
「一切ですな」
「手を出されませぬな」
「怒られることも」
「そうじゃ、一切じゃ」
 それこそというのだ。
「この様な下らぬことでな」
「ですな、大御所様がです」
「この様なことで何も怒られませぬ」
「その辺りの川柳や民達の口さがない言葉も笑い飛ばされるというのに」
「その程度のことでは」
「むしろその茶々様が大坂を仕切っておられる」
 家康を呪うばかりの彼女がというのだ。
「大坂はどうなるか」
「危ういですな」
「お拾様はまだご幼少ですし」
「それではですな」
「あの方が実質的な大坂の主なので」
「危ういわ、それでその果心居士はな」
 板倉はあらためてこの者の話もした。
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