第一章
[2]次話
永久就職
伊勢晃一はこの時悩んでいた、その悩みは彼が経営している喫茶店ブルーシードに新しくバイトに入った鈴鹿美咲にあった。
明るく穏やかで接客態度がよくレジ打ちも持ち運びも皿嵐も掃除も万全だ、しかもルックスもよく。
黒髪のロングへアが実によく似合う大きな黒目がちの目に細く奇麗なカーブを描いた眉、薄いピンクの小さな唇にやや面長の白い童顔の顔立ち、店のメイド調の征服とエプロンが似合う大きな胸と奇麗な脚を持っている。その彼女を観てだ。
伊勢はその大柄でよく太った口髭の野暮ったい外見と顔で彼女に言うのだった。
「ねえ、美咲ちゃんってね」
「何でしょうか」
「大学行けたんだよね」
「はい」
美咲は明るく笑ってだ、伊勢に答える。店はもう閉店時間を迎え最後の掃除中である。美咲はテーブルを一つ一つ丁寧かつ迅速に拭いてそのうえで奇麗にしている最中だ。
「そうです」
「八条大学に合格して」
「したんですけれど」
ここで美咲は寂しい笑顔になって言った。
「お父さんとお母さんが事故で」
「そうだよね」
「ですから」
それで今はというのだ。
「こうしてです」
「アルバイトをしてだね」
「生活してます、あと弟がいますので」
「弟さんの学費と生活費もだね」
「まだ高校生なので」
だからだというのだ。
「私が」
「そうだね、偉いね」
伊勢は美咲のその言葉を聞いてしみじみとした口調になって言った。
「そうそう出来ないよ」
「そうですか」
「とてもね」
実際にというのだ。
「そんなことは、僕だったらね」
「マスターだったら?」
「いや、このお店は幸いね」
伊勢はその閉店している店の中で彼自身も掃除をしつつ言うのだった。熱心にモップをかけている。
「八条百貨店の中にあるね」
「はい」
「それでお客さんは安定してるからね」
「来てくれますよね」
「うん、百貨店のお客さんに中で働いてる人達もね」
「だから売り上げもよくて」
「経営には困ってないけれど」
それでもというのだった。
「お祖父さんがたまたま当時の百貨店の店長さんと知り合いで」
「テナントをですね」
「貰ってね」
「それで今もですね」
「経営出来ているけれどね」
百貨店の中でというのだ。
「美咲ちゃんはね」
「私は」
「弟さんのことも含めて」
伊勢はまたしみじみとなった。
「大変だね」
「そう言われますと」
美咲は伊勢のその言葉に寂しい笑顔になって応えた、その間も掃除の手は泊まらない。
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