第四章
[8]前話
だがお宮はその羽衣とそっと幸吉の方にやってだ、こう言ったのだった。
「いいです」
「いい?」
「はい」
微笑んで夫に言った。
「私はここに残ります」
「おらの家にか」
「そしてあなたと子供達と共に残ります」
そして一家で暮らしていくというのだ。
「そうしていきます」
「これからもか」
「はい、ずっと」
まさにという返事だった。
「そうさせてもらいます」
「いいのか?それで」
「天界には戻りません」
自分から幸吉に言った、それも言い切った。
「あなたとそして子供と」
「ずっとか」
「この家で暮らしていきます」
「しかしおらは」
「確かによくないことで私を妻にしました」
羽衣、今お宮が退けたそれを隠してというのだ。
「ですがそれも私を真剣に好きになってですね」
「おら嘘は言わん」
それは絶対にとだ、幸吉は言った。
「そもそも嘘を言ったことばないな」
「はい、一度も」
女房となったお宮が知る限りだ。
「ありません」
「そだな」
「そして夫婦になっても私を大事にし続けてくれて子供もそうしてくれています」
「だからか」
「そうした人なので」
「おらとこれからもか」
「お願いします」
お宮から言った。
「あなたと、子供と一緒にいたいです」
「そうか」
「はい」
そうだという返事だった。
「是非」
「そうか、それならな」
「これからも宜しくお願いします」
こう言ってだ、お宮は微笑んでだった。幸吉に言った。そうしてだった。
羽衣は受け取らなかった、そしてそのまま幸吉と二人の間に生まれた子供と仲睦まじく暮らした。
この話は静岡のある港町に伝わる話だ、室町のはじめ頃の話だという。お宮の子孫の人はまだこの町で暮らしているというが誰かまではわからない。だが天界に戻らず夫婦のまま暮らした天女がいた、このことは面白いと思いここに書き残すことにした、一読し覚えてくれる方がおられれば幸いである。
羽衣を捨てて 完
2017・5・12
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