第一章
[2]次話
羽衣を捨てて
駿河の話である。
漁師の幸吉はある日海で水浴びをしている美しい女を見て一目で心を奪われてそうしてだった。
女が海の傍にあった木にかけていた薄い生地の衣を取って隠してから海を出て服を探している女に言った。
「おらと夫婦になってくれ」
「えっ、貴方と」
「そうだ、そうなってくれ」
女に必死の顔で言うのだった。
「絶対に」
「ですが私は」
女は胸等を手で必死に隠しつつ幸吉に答えた。
「天界から来たので」
「何っ、あんたまさか」
「はい、下界に降りて海で身体を清めていました」
「天女なのか」
「はい」
その通りだとだ、女は幸吉に答えた。
「そうです」
「そうだったのか、道理で物凄い別嬪さんな訳だ」
幸吉は女のそのこの世のものとは思えぬ美貌をあらためて見て頷いた。
「あんた天女だったか」
「はい、ですから衣がなければ」
「衣はおらが持ってる」
こう言うのだった。
「あんたその服がないと帰られないのか」
「ですから返して下さい」
「いや、駄目だ」
幸吉も必死だ、だから好きなやり方ではないがどうしても女が欲しくてだ。あえてその好きでない方法を採った。
「おらの女房になってくれ」
「私の」
「そうだ、なってくれ」
こう言うのだった、あくまで。
「そうして欲しい、絶対に」
「私は天界に帰らないと」
「おらの女房になってくれ」
その武骨でゴツゴツした顔で言う、身体もそうで足はガニ股だ。
「そうしてくれ」
「返さないのですか」
「そうだ」
こう言うのだった。
「おらの女房になって欲しい」
「どうしてもですか」
「衣は返さない」
幸吉は必死の顔で言うばかりだった。
「おらの女房になって欲しい、大事にするから」
「そうですか」
「そうだ、なってくれ」
幸吉があまりに言うのでだ、それでだった。
女は仕方なく幸吉の女房になった、名前はお宮と名乗った。そうして幸吉の家での暮らしをはじめたが。
一緒になると幸吉は真面目に働きしかも心優しくいつもお宮のことを気にかけた、漁では魚を採って男の仕事でしないことはなかった。
子が出来てもその子供を可愛がって言うのだった。
「おらは幸せモンだ」
「今の暮らしがですか」
「とてもよくてな」
それでというのだ。
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