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戦姫絶唱シンフォギア〜貪鎖と少女と少年と〜
第一話 窓拭きの少年
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た。今まで見ていた彼女とは真逆の装いに鳳は一瞬自分の目を疑ってしまったが、それでもたなびくオーラがそれを現実として鳳の目の前にいるのだ。受け入れるしかあるまい。
 そんな鳳の心の整理すら終わらないままに、マリアは二の次を発する。

「我ら武装組織『フィーネ』は各国組織に要求する。そうだな……差し当たっては国土の割譲を求めようか」
(おいおい発言が一々デカくなってきたな……)

 鳳は思わず噴き出しそうになった。少なくとも、それくらいの余裕は持ち直してきたのかもしれない。だが、まだ予断を許さないのも良く理解している。
 さっきから翼とマリアが何かやりとりをしているのが見えるが、生憎と内容が聞き取れない。

(このままこの会場全員を人質にするのか……?)

 そんな鳳の最悪の予感を覆したのは他でもないマリアであった。


「会場のオーディエンス諸君を解放する! ノイズに手出しはさせない。速やかにお引き取り願おうか!」


 静かになること数分。ようやく彼女が何を言っているのか飲み込めた観客達は我先にと出口へと駆け出した。人間の圧力は凄まじく、全く足を動かしていないのに鳳はその人の波に押されてしまう。それだけならまだ良かったのだが、鳳の頭から赤いバンダナがするりと解けてしまった。

「ッ!? おい、待て! 押すな! バンダナが! 父さんにもらったバンダナが!!」

 そこからは雪崩のように。押しても押しても人の流れに逆らえず、鳳はあっという間に会場の外に弾き出されてしまっていた。右を見ても左を見ても、安全地帯に逃げられたことの喜びを分かち合ってるが、鳳の心境は穏やかではなかった。

(冗談じゃねぇ……! あれは、あれだけは……ッ!)

 しかし動かない、いや動けない。身近に這い寄る死の恐怖を感じ取ってしまったから。だけど、あの赤いバンダナだけはどうしても捨て置くわけにはいかない代物である。
 一度大きく息を吐くと、両頬を思い切り叩いてやった。ビリビリと頬を走る痛みが、次の瞬間には鳳を走らせる。

「ふざけんなよ……マリア・カデンツァヴナ・イヴッ!!!」


 口にするはノイズを出現させた者の名。いつの間にか鳳の胸からはあの熱さが消えてしまっていた――。
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