暁 〜小説投稿サイト〜
戦姫絶唱シンフォギア〜貪鎖と少女と少年と〜
第一話 窓拭きの少年
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音楽院の一年生にして、鳳の後輩とも言える少女である。彼女はこうして掃除をする鳳を見ては挨拶をしてくるのだ。口では悪態をつくが、特段彼女へ悪い感情は抱いてはいなかった。むしろ好意的とすら言える。
 なまじ女子学校なだけに、唯一の男子ともいえる鳳と距離を取る生徒は多数いた。その中でも彼女は恐れることなく鳳へ近づいてきたのだ。彼自身、孤独は別に嫌いでは無かったのだが、こうして一度陽の光を感じてしまえばそれがどれだけ日々の仕事の活力に影響してくるか分からない。……感謝はしていた。

「や、やだなー! 別に邪魔するつもりはないんですってー! 鳳さんが楽しそうに掃除しているからその応援をしたいんですよ私ってば!」
「いつ俺が楽しそうに掃除をしていたというんだいつ」
「だって鳳さん、鼻歌歌ってましたよ?」

 響の隣にいた黒髪の女子生徒――小日向未来がそう言って笑いかける。動いた拍子に頭の後ろで結んでいる大きなリボンがふわりと揺れた。何の気なしにその様子を目で追っているうちに彼女が更に言葉を続けていた。

「それ、ツヴァイウィングの曲ですよね?」
「ああ名曲だ。この歌はいつも俺に力をくれる」
「鼻歌だけじゃなくて口で歌わないんですか?」
「残念ながら小日向、俺は歌が下手だ。だから歌わない」

 すると黙って聞いていた響が更に窓から身を乗り出す。

「ええっ!? 鳳さん歌上手いじゃないですか! 私、鳳さんが歌っている所聴いたことありますよ!」
「……さあな。幻聴だろう」

 あまり人前で歌うことは得意ではないからこそこういう外の窓拭きの時ぐらいしか歌わない鳳だったのだ。

 ――そして、彼にとって歌うという時と場面は限定されている。

 しかしてそれは今言う事ではない。言葉を飲み込み、鳳は手だけで二人を追い払うように動かす。

「ほら、いい加減掃除を片付けたいんだ俺は。行け行け」

 この二人の美点は素直に言う事を聞いてくれるという点である。響も未来も去り際にまた“頑張ってください”と言い残し、帰っていったのを見届けてから、鳳はまたスクイージーを握り締め、もう片方の手はワイヤーの射出と巻取りを兼ね備えるボタンが付いているスティックへ。
 すっかり話し込んでしまっていた。まだノルマをこなしていないことに気付き、少しだけ急ぎ気味に鳳は窓枠を蹴り、再び宙へと躍り出るのであった――。


 ◆ ◆ ◆


 あれから一時間弱。一通り掃除をこなした鳳は事務室で一息ついていた。
 鳳はこの掃除が終わった後にほうじ茶を啜るという行為が好きであった。香ばしい風味はいつも鳳の疲れた身体と心を癒してくれる。齢十八歳、という年齢を気にしない言い方をするのであれば、“この一杯の為に生きている”のであった。
 今日も今日とて仕事
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