暁 〜小説投稿サイト〜
戦姫絶唱シンフォギア〜貪鎖と少女と少年と〜
第一話 窓拭きの少年
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少年の視線の先には屋根の先端。狙いを定め、ボタンを押し込むと、中心部のワイヤークローが目標へ飛んでいく。先端をがっちり爪が掴むと、少年は外れないかどうか念入りに確認をする。ここを怠るとあっという間に落下し、バックパックに用意されている緊急パラシュートを作動する羽目になる。
 確認作業を終えた少年は後者に向き合うように身体を向けた。ここからが少年の仕事の始まりである。

「ふっ……!」

 少年の、この私立リディアン音楽院における役割とはずばり『清掃員』である。女子高であるこの学校に男性が、しかも十八となる少年がこうして働いていることにはそれ相応の理由がある。当然、一時期は生徒達の噂ともなっていた。
 だが、それは事実であり、少年は働くべくしてこのリディアンで働いていた。――しかし、少年自身が詳細を語ろうにも語れないというのも、また事実であった。

(そういえばまだ顔も見たことなかったな。俺をこのリディアンで働けるようにしてくれた“良いおっさん”)

 短く息を吐き、少年は一思いに屋根から飛び降りる。すぐさまベルトからワイヤーがどんどん伸びていき、それがそのまま少年の命綱となる。
 少年は特に恐れた様子もなく、まるで消防士のように学校の壁を蹴っては目的地である窓まで降りていく。その手馴れた様子は以前からやっていたベテランの風格とも言えよう。
 あっという間に窓まで辿り着いた少年は枠に足を掛け、そのまま右手に持っていたスクイージーで掃除を開始する。水に一度漬け、そして窓を拭くという工程を熟練の流れでこなし、また次の窓へと行く。
 この時間が少年は好きだった。ワイヤー吊りとはいえ、空中を自由自在に動いているようなこの感覚がどうしようもないくらい開放感を感じられてしまう。

「ふん……ふん……ふん〜」

 無意識に少年は鼻歌を歌っていた。双翼の歌姫、その名は『ツヴァイウィング』。既に解散はしていても、少年の心の中には常にこの二人がいたのだ。今歌っているのは少年が最も好きな曲である『ORBITAL BEAT』。胸が爆発するようなサウンドは少年の心を掴んで離さずにいた名曲中の名曲である。少なくとも少年はそう思っていた。
 無心で掃除をしていると、次に片づける予定の窓が開き、そこから女の子が顔を出した。

「鳳さーん!」
「……ん?」
「鳳郷介さーん!! 今日も窓拭きお疲れ様で〜す!」

 『鳳郷介』と呼ばれた少年はぶんぶんと手を振る明るい髪色の少女、そしてそれを諫める黒髪の少女を見て、少しばかり顔をしかめた。相変わらず仕事の邪魔をする奴め――そう思いながらも鳳はワイヤーに吊られた身体を巧みに動かし、彼女達の近くの窓枠に手を掛けた。

「お前は俺の仕事の邪魔をするのが仕事らしいな立花響」

 立花響――私立リディアン
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