第7章 聖戦
第173話 古き友
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五メートルの距離などゼロに等しいのだが……。
そう考えながら、大きく息を吸い込み、取り込んだ外気をゆっくりと丹田に落とす。同時に複数の術式を起動。
但し、これは召喚に必要な術式と言う訳ではない。精神汚染を少しでも和らげるための術。更に、奴が顕われた瞬間に起きる事態や、戦闘を行う際に発生する周囲に対する影響を最小限に抑えるための結界系の術の複数起動。
龍気を練り上げ、身体中に気を巡らせる俺。大丈夫、ヤレる!
気合いを入れ直し、堅牢なる石造りの床を踏みしめる。そして、空中の一点を睨み付け、
「おい、どうせ何処かから覗き見ているんやろうが!」
突然、叫び始める俺。当然、
「おい、貴様、一体何を――」
普通に考えると、ここは何らかの召喚円を描き始めるのがセオリー。最低でも何らかの呪文を唱えるべきタイミングで、いきなり訳の分からない事を敵が叫び始めたらそりゃ慌てるでしょう。
但し、奴にそれ以上のアクションは起こせない……はず。そもそも、未だ俺やタバサの能力値が見えていない以上、この慎重な男が玉砕覚悟で突っ込んで来られる訳などない。
その場から動こうとせず……いや、口調とは裏腹にもう一歩分、後ろに体重を掛けつつある匿名希望のチンチクリンを意識の端に起きながら意味不明の日本語を続ける俺。
「さっさと出て来てこのヌケ作をどうにかしろ!」
一瞬、何かが動いた気配。いや、確かに周囲の気配は表面上一切変わってはいない。このシュラスブルグのアルザス侯爵邸には生者の気配すら乏しく、世界は重苦しいまでの夜の静寂と真冬の冷気。それに隠しきれないほどの死の気配に包まれている。
しかし、その中に微かな手ごたえ。大丈夫、間違いなく彼奴は俺を見ている!
「この早――」
禁断のキーワードを叫ぶ、いや、叫んだ心算だった俺。しかし、その刹那、視界が白に染まる!
まるで、一瞬だけ時間が巻き戻されたかのような気分。その刹那を何億分の一に切り刻んだ僅かな隙間。白に染まった世界から叩き付けられる暴風により、強化したはずの結界が軋む。
そして!
「誰が早いんじゃ、誰がぁ!」
爆音に重なる男性の声。それはある意味、非常に懐かしい声であった。確かに今回の人生でも何度か出会ってはいる相手だが、この心が感じている懐かしさは去年まで……タバサに召喚され、有希と再会する以前の俺が感じて居る懐かしさなどではない。
これは以前の俺だった存在。転生前の俺が感じて居る気持ち。
「オマエ、見たんか、計ったんか?
儂はあれほど早くないと言うとるやろうが!」
濛々と立ち込めるのは一瞬にして石が粉々に砕かれた破片。無理矢理、異世界から実体化した事に因る空間自体の爆発。更に続く、全力で振り抜かれた右
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