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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第七十五話 繁栄と衰退、そして……
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大帝は考えた……。

そして帝政初期においてそれは上手く行ったと言える。当時は共和主義者の反乱は有っても貴族の統治に対する反乱は無かった。政治制度に対する不満であって統治に対する不満ではなかったのだ。帝政の有効性、貴族制度の有効性は誰もが認める所だったはずだ……。

この統治体制に誤りが有ったとすれば、貴族制度をあまりにも固定化し過ぎた事だろう。特に爵位を持つ貴族を優遇しすぎた事が他の貴族、平民を排他することになった。階級間の流動性が失われるとどうなるか? 簡単だ、流動性が失われれば閉鎖的になり、閉鎖的になった階級は活力を失い階級内部に閉じこもる事になる。それが帝国の統治を担うべき大貴族の間に起きた……。

「つまり貴族達は民を顧みず、国を顧みず己が権勢と利権にのみ関心を持って行動している。何処かで聞いたような話だとは思わんか?」
わしが問いかけると妻は頷き、そして躊躇いがちに話しかけてきた。

「貴方はルドルフ大帝が誤ったとお考えですの」
「随分と大胆な意見だな、アマーリエ」
わしが大袈裟に驚いた振りをすると妻はすました表情で答えた。

「悪い夫を持った所為ですわ」
「女帝陛下の夫としては不届きなる者ですな、それは。後ほどきつく叱っておきましょう」
妻がわしを叩く様なそぶりをする。“参った”と言って両手を上げて降参すると笑い出した。

「それで、どうお思いですの」
「この本の中では間接的にだが誤ったと書いてあるな。だがわしに言わせればいささか酷だと思う。少なくとも帝政初期においては貴族制度は極めて上手く機能していたのだ。死後の事まで責任を持てというのはな……。それは生きている人間の責任だろう」

妻は頷いている。そして少し俯いて話しかけてきた。
「貴族達を滅ぼすというのは本気なのですね?」
「……」
「だから私にお話になったのでしょう?」

妻はもう俯いていない。わしの目を覗き込もうとするかのようにじっと見ている。
「アマーリエ、軍は貴族、下級貴族、平民の交流が活発だとは思わんか。政治の世界、貴族社会に比べれば遥かに開かれているし活力に満ちている。宇宙艦隊司令長官はオフレッサー元帥、そして宇宙艦隊で頭角を現してきたのはミューゼル中将だが彼は平民にも劣るほどの貧しい家に生まれた。完全にとは言わんがある程度の実力主義は成立している」
「……そうですわね」

「何故だか分かるか?」
「……」
「今から五十年ほど前の事だ、反乱軍の手で貴族出身の将官が大量に戦死した」
「ブルース・アッシュビーの事ですね」
「そうだ」

ブルース・アッシュビー、反乱軍が生んだ用兵の天才。ファイアザード星域会戦、ドラゴニア会戦、第二次ティアマト星域会戦等において帝国軍に損害を与えた……。特に第二次ティアマト星域会戦で
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