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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第七十五話 繁栄と衰退、そして……
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にどうなさいましたの、怖い顔をなさって……。本を読んでいるようには見えませんでしたけど……」
そう言って本に視線を向けた。わしも釣られたように視線を本に落とす。
「うむ、どうもこの部屋は落ち着かん。この本を読みたいと思ったのだが集中できん、読むのは二度目だからかな」
わしの言葉に妻は部屋を見回した。
「そうですわね、私もこの部屋は落ち着きませんわ」
口調からするとわしを気遣っての事でもない様だ。はて、妙な事を……。
「お前は昔、この南苑に住んでいただろう」
「そうですけど、今では他所の家ですわね。私はブラウンシュバイク公爵夫人ですから」
そういうと妻は肩を竦めた。
「女帝陛下だ。……お前はこの国で一番偉いのだぞ、何時までも公爵夫人では困る」
わしが溜息を吐くと妻がまた笑い出した。困ったものだ、朗らかすぎる妻を持つとそれ自体が悩みの種になる。
「それで、その本は何ですの。貴方が本を読むなんて珍しい事ですけど」
「失敬な、わしだとてたまには本を読む」
「たまには?」
妻が屈託なく笑う、やれやれ、わし自身が墓穴を掘ったか……。
「“銀河連邦の終焉と帝国の成立”……、少し奇妙な本ですわね。帝国の本ですの?」
小首を傾げるようにして妻が問いかけてきた。
「いや、フェザーンで書かれた本だ。二十年ほど前にな」
妻が納得したように頷く。
“銀河連邦の終焉と帝国の成立”、銀河連邦が停滞を始めた頃、宇宙歴二百五十年から始まり帝国歴四十二年、ルドルフ大帝の崩御までの約百年を記述した歴史書だ。
妻が不審を抱いたのには理由が有る。連邦末期から帝国成立期というのは帝国の歴史家にとって非常に書き辛いのだ。この時代の事を書こうとすればどうしてもルドルフ大帝の事を書くことになる。そして大帝の事を書くとなればあくまで帝国の正史に準拠した書き方しかできない。
正史はルドルフ大帝の生誕から始まる。大帝の皇帝即位が帝国歴一年となるため、それ以前は帝国歴前××年という書き方になる。正史の始まりは帝国歴前四十二年からだ。そしてその内容は当時の連邦が腐敗、堕落しそれを憂いた大帝が神の如き指導力で一掃した。そして市民達の支持を受けて帝国を建国したと言うものだ。
独自の解釈による記述、そんな事をすればたちまち非難を受け社会治安維持局に逮捕されるだろう……。つまりこの時代の事は誰が書いても内容は同じで極めて詰まらない本になる。“この時代の事は正史があれば十分”という歴史学者達の皮肉はそこから来ている。
「宜しいのですの、貴方のお立場ではそのような本を読むのはいささか……」
妻が気遣うような視線を向けてきた。フェザーンで書かれたとなれば内容にはルドルフ大帝にいささか都合の悪い記述もあるだろう、そんな本を読んで良いのか? そうい
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