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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第七十三話 虚実
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込もうとしていたのだと思います」
「……」
ケスラーは小首を傾げ考え込んでいる。納得は出来ないのかもしれない、しかし反論も出来ない、そんなところか……。

ヴァレンシュタインが帝国に居れば、彼が多くの人間を俺に引き合わせたという事だろうか。ルッツ、ケンプ、ファーレンハイト……。戦いの後、彼らの事を調べたがいずれも力量のある男達だった。彼らを元帥府に引き入れられなかったのは失敗だった……。

「そう考えていくとヴァレンシュタインが兵站科を専攻した理由も分かります。戦争の基本は戦略と補給、彼の口癖ですがそれだけではなく考える時間が欲しかったのではないかと……」
「……考える時間?」
ケスラーの問いかけにクレメンツが頷いた。

「そうです。帝国を変えるためにはどうすれば良いか、それを考える時間を必要としたのだと思います。兵站科なら戦略科に比べ自由になる時間が有る。彼は良く図書室で本を読み、考え事をしていました。彼が帝国文官試験に合格したのも資格を取るのが目的ではなかったでしょう……」
「どういう事だ、クレメンツ」
資格を取るのが目的ではない、では何のために……。

「行政官としての目を持つ事、法律家としての目を持つ事が狙いだったと思うのです。だから彼はエリートコースである軍務省官房局にも法務局にも進まなかった。比較的余裕のできる兵站統括部で軍人として行政官として法律家として様々な目で帝国を分析した。どうすれば自分の望みを叶えることが出来るかと……」

戦慄が体を走った。ケスラーが呻いている。俺は皇帝になろうと思った。だがクレメンツの言う事が事実ならヴァレンシュタイン程帝国を理解しようとしただろうか? 軍で昇進し、実力を付ければ皇帝になれると簡単に思っていなかったか……。

「リヒテンラーデ侯がヴァレンシュタインは帝国の弱点を知り尽くしていると言ったのは大袈裟では有りません、至極当然の事なのです。彼ほど帝国を知悉している人間は居ません。帝国を変えるために帝国を知り尽くした……」
「……」

「そして敵対するであろう貴族とは何なのか、その弱点は何処に有るのかを知ろうとした……。おそらくカストロプ公の事もその時に気付いたのでしょう。自分の両親を殺したとは分からなかったでしょうが、カストロプ公はリヒテンラーデ侯の用意した生贄だと推測したのだと思います……」

知らないはずの事を知っている人間がいる、そうヴァレンシュタインは言っていた。知らないはずの事を知っていたのではない、クレメンツの推測が正しければ俺達が知ろうとしなかった事を知っていたのだ。

一体どれだけの時間を知るために費やしたのか……、ヴァレンシュタインは唯一人帝国の闇を探り続けた。それが帝国の、貴族達の弱点だから。そのために帝国の闇を見続けた……。

信じら
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