暁 〜小説投稿サイト〜
終末なにしてますか?忙しいですか?救ってもらっていいですか?赤き英雄
太陽の傾いたこの世界で
走る黒猫と灰色の少女
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黒猫が、走っている。
それはもう、見事な走りっぷりだった。
狭《せま》い路地を潜《くぐ》り抜け、
塀《へい》の上を駆《か》け抜けて、
屋台の帆布《ほぬの》の上を飛び跳《は》ねて。
この一角の呼び名は『寄せ集めの市場街』《マーケット・メドレイ》、もともとは月に一度の定期市が開くというだけの場所だったところが、建物の無計画な増改築を繰《く》り返したあげく巨大《きょだい》な迷路《めいろ》と化してしまったところである。
不馴れな者にはただ歩くだけでも困難なその街を、猫《ねこ》は、全力で駆け抜けている。
なぜ走っているのか。逃《に》げているからだ。
何から逃げているのか。追ってからだ。
『待、ち、な、さぁーいっ!』
その追っ手であるところの少女が、声を張り上げた。
狭い路地に身を押し込んで、
塀の上を渡《わた》って、
屋台の帆布の上から転げ落ちながら(そのたびに店主に怒られた)。
蒼《あお》い瞳《ひとみ》でまっすぐに前を見据《みす》え、ひたすらに黒猫の尾《お》を追い続ける。
地味な格好の少女である。大きな鼠色《ねずみいろ》の帽子《ぼうし》を目深《まぶか》にかぶり、同じ色のコートをまとっている。おそらくは少しでも目立たないようにと選ばれたのだろうその組み合わせは、しかし当の本人が大声あげて全力疾走《しっそう》中の今、あまり役に立っていなかった。
「待て、って、言ってる、でしょうがぁ!」
砂埃《すなほこり》を巻き上げ、空のペンキ缶《かん》を蹴《け》り散らかし、コートの裾《すそ》をばたばたとはためかせて、少女は走る。
豚面族《オーク》の雑貨店が。爬虫族《レプトレイス》の絨毯《じゅうたん》商が。狼徴人《リュカントロポス》の通行人が。とにかく様々な人々が。
すさまじい速度で街を駆け抜けていく彼女を、驚《おどろ》きの目で振《ふ》り返る。
と、黒猫が急に立ち止まる。
「もらったぁ!」
ここがチャンスだとばかりに、少女は大きく跳躍《ちょうやく》する。
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