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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第七十一話 口喧嘩
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。帝国はこれ以上の敗戦には耐えられない筈だ。出兵となれば必ずあの艦隊が主力になる。彼らがオーディンへ帰還する以上、出兵は先ず無いと見て良い」

出兵は無いか、それにしても危険?
「危険とはどういう意味かな、シトレ」
「帝国でも最精鋭の部隊だ。そして指揮官のミューゼル中将は天才だとヴァレンシュタインは言っている。彼はミューゼル中将を酷く畏れて居るよ、自分など到底及ばないと……」

皆、顔を見合わせた。全員が、口に出したシトレでさえ半信半疑な表情をしている。ヴァレンシュタインが到底及ばない? あの男がか?
「冗談だろう、シトレ」

気が付けばシトレを気遣う様な口調になっていた。シトレは苦笑している。
「私もそう思うのだがね、彼は本心からそう言っているし、彼が嘘を吐いた事は無い。実際ミューゼル中将に関してはかなり出来るだろうと軍の情報部でも見ている。オフレッサーの信頼も厚いようだし、彼の下に人も集まっている。天才かどうかはともかくかなり手強いだろうな」

シトレは最初は苦笑していたが最後は生真面目な表情をしていた。その事でまた皆が顔を見合わせた。躊躇いがちにホアンがシトレに問いかけた。
「ミューゼルというのはヴァレンシュタインが話をしていた男だろう、まだ若いようだったが……」

「グリューネワルト伯爵夫人の弟だ。その所為で最初、軍は彼を全くマークしていなかった。軍が彼に関心を持つようになったのはヴァレンシュタインが彼を天才と評価していることを知ってからだ」

グリューネワルト伯爵夫人か、皇帝の寵姫、つまり彼は皇帝の寵姫の弟だった。だから軍は彼を評価しなかった。出世はコネによるものだと思った、そういう事か。

「しかし、あの話し合いの中では一方的にヴァレンシュタインが優位だったようだが……」
私の言葉にシトレが苦笑を漏らした。
「口喧嘩なら誰にも負けないそうだ」

部屋に笑い声が満ちた。
「確かに勝てる人間が居るとは思えんな」
「その事はレベロ、君が一番よく分かっているんじゃないかね」
「余計な御世話だ、トリューニヒト」
一頻り笑い声が部屋に満ちた。

「まあ冗談はさておき、帝国軍が攻めてくるという事は無いだろう。対策はそれを前提に考えなくてはいかんな」
「しかし上手い手が有るかね、トリューニヒト」

ホアンの問いかけにトリューニヒトとシトレが顔を見合わせている、そして微かに頷き合うとシトレがゆっくりとした口調で話し始めた。
「イゼルローン要塞から皆の眼を逸らす……、それしかないだろう」

「逸らす、と言うと」
私が問いかけるとシトレとトリューニヒトがまた顔を見合わせた。どういう事だ、この二人は既に対策を検討しているのか? シトレが言葉を続けた。

「フェザーンだ」
「フェザーン?」

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