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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第七十一話 口喧嘩
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要塞を攻略して見ろ、辺境では独立運動が起きかねん。救援を要請されたら今の政府が断ると思うか? なし崩しに帝国領への関与が深まるだろう」
「……」
帝国領への関与、つまり金、物資、兵の投入か。以前ヴァレンシュタインが言った際限の無い介入と国力の疲弊……。考えているとトリューニヒトの声が聞こえた。
「帝国がどうなるのかは分からない。崩壊か分裂か、或いは再生か……。帝国が再生するなら和平を結ぶべきだ、しかし崩壊か分裂なら放置して同盟の安全のみを考えるべきだと思う」
和平ではなく安全か……。例え帝国が地獄になろうと放っておくと言う事か……。エゴイズムと言って良いのだろう、だが同盟市民をその地獄に巻き込む事は出来ない。であればトリューニヒトの言う事は正しい……。
少しの間沈黙が落ちた。多分皆が安全という言葉が持つ意味について考えていたのだろう、その冷酷さを。
「何らかの理由を付けてイゼルローン要塞攻略に反対しなければならんだろうな……。どういう理由が有る? 今回はどんな理由を付けたんだ?」
「経済と財政が破綻する……」
「社会機構の維持が出来なくなる……」
シトレの問いに私とホアンが答えた。辛気臭い答えだ、部屋の空気がさらに重くなったように感じられた。
「ホアンが良くやったよ、軍から民間へ四百万人戻せと言ったからな」
私の言葉におどけたようにホアンが肩を竦めた。そのしぐさに部屋の空気が僅かに緩んだがその事がホアンには面白くなかったらしい。冗談と取られたと思ったようだ。
「冗談では無いよ、私は本気で言ってるんだ。今すぐにでも人を民間に戻すべきなんだ。」
「今は無理だ、そんな事をしたら軍組織が崩壊する」
ホアンがキッとなってトリューニヒトを見た。
「だがこのままでは国家が崩壊する」
いかんな、トリューニヒトとホアンが睨みあっている。二人とも思うようにいかず苛立っている。
「落ち着けよ、二人とも。だから和平を、そうだろう」
私の言葉に二人がバツが悪そうに頷いた。それをシトレが面白そうに見ている。馬鹿野郎、笑い事じゃないんだぞ、シトレ。
「帝国軍が攻めてくる可能性は無いのかな、それなら今の軍の方針が有効だと説得できるだろう」
ホアンがトリューニヒト、シトレに視線を送りながら尋ねた。トリューニヒトとシトレが顔を見合わせている。溜息を吐いてシトレが話し始めた。
「残念だが、イゼルローン方面に居たミューゼル中将の艦隊はエルウィン・ヨーゼフ二世の死と共にオーディンへ向けて帰還したそうだ。当分帝国軍が攻めてくる事は無いだろう」
「他の艦隊が攻めてくる可能性は」
私の質問にシトレは力なく首を横に振った。
「無い、と見ていいだろう……。ミューゼル中将の艦隊は帝国でも最も危険な艦隊だと軍は見ている
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