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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第六十九話 波紋
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着いた穏やかな声で問いかけてくる。
「如何なされました、ミューゼル提督」
この男の声を聞くと気分が落ち着く、それだけでも傍に置く価値が有るだろう。
「今、オフレッサー元帥より連絡が有った。出兵は中止となった。至急、オーディンに戻れとの事だ」
ケスラーとクレメンツが顔を見合わせている。二人とも緊張した表情だ。
「それはどういうことでしょう。例の計画が漏れたのでしょうか」
ケスラーが珍しく硬い声を出している。俺もオフレッサーにこんな声を出していたのかもしれない、そう思うと可笑しかった。
「いや、そうではない。エルウィン・ヨーゼフ二世陛下とリヒテンラーデ侯が亡くなられた」
「まさか……」
「詳しい事は分からないがブラウンシュバイク公邸で行われたパーティで爆破事件が有った、それの犠牲になったようだ」
ケスラーとクレメンツが顔を見合わせている。ややあってクレメンツが口を開いた。
「犯人は分かっているのでしょうか」
「まだ分からないらしい。犠牲者がかなり出たようだな、オーディンは大騒ぎだと元帥閣下が言っておられた」
「計画がばれたわけではないのですな」
ケスラーの問いに頷いた。ケスラーは確かめるような口調で言葉を続けた。
「しかし計画は潰えた……」
「そういう事だな。また振り出しに戻った」
振り出し、その言葉にケスラーとクレメンツが渋い表情をした。現状はとても満足できるものではない、打開策が見つかったと思ったのも束の間、あっという間に元に戻っている。いや、テロの事を思えば状況はさらに悪化していると言って良い。
この一週間は何だったのか……。クーデター計画をケスラー、クレメンツに話し、両者の同意を得た。計画を詰めミュラーを通してブラウンシュバイク公の反応を探った。ようやく協力できると判断し計画を打ち明けた……。
後はこちらが分艦隊司令官への説得とオフレッサーの説得をする。ブラウンシュバイク公はリッテンハイム侯の説得をする。それで準備は完了だった。もう少し、もう少しだった……。
「問題はこれからですな。ブラウンシュバイク公とリッテンハイム侯、この二人が協力できるかどうか、それによって帝国の行く末が決まります」
クレメンツがケスラーの言葉に頷いている。
この二人が協力し合えるのであれば、そこに軍も加われば十万以上の兵力となる。貴族達の動員兵力に比べれば半分とはいえ決して小さい数字ではない。それに軍は今兵の再編中だ。時がたてば兵力が増える。改革を実施してくれれば精強な軍となる。
だがブラウンシュバイク公とリッテンハイム侯、この二人が決裂するのは最悪だ。ブラウンシュバイク公は改革には反対していない、となると反対するのはリッテンハイム侯だが、貴族達に集結する核を与える事になる。極めて厄介な事態
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