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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第六十八話 流血の幕開け
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。これまでどんな想いでエルウィン・ヨーゼフを見てきたのか……。そしてその想いを今度はわしとリッテンハイム侯が引き継ぐことになる。エリザベート、サビーネ……。
「二人とも近寄ってくれ」
リッテンハイム侯と顔を見合わせた。そして二人でリヒテンラーデ侯に近づいた。侯の傍に膝をつく。この老人の遺言をわしとリッテンハイム侯が聞く事になるとは……。
「遠征軍を撤収させろ、理由は皇帝死去、喪に服すと言えば良い」
「分かった」
異存は無かった。今となってはイゼルローン要塞に兵力を集中させるのは反って危険だろう。兵達がこの混乱に乗じて妙な事を考えかねない。むしろ撤収は早期に実施する必要がある。
「改革を実行しろ、それ以外に帝国を救う手は無い」
囁くような声だ、苦しいのか、それとも周囲の耳を憚っているのか。
「帝国は五百年続いた、だがその寿命は限界に近づいている。私は少しでも帝国を安定させようとしたが裏目に出た……。このままでは帝国は滅ぶ、改革を実施するのだ。さすれば帝国は新たな命を得る事が出来よう」
「出来ぬとは言わさぬ。卿らはカール・ブラッケ、オイゲン・リヒターに会ったはずだ。何のために会った?」
そう言うとリヒテンラーデ侯は呻いた。食えぬ、油断ならぬ老人だ。身辺には注意したつもりだが知られたか。或いは見張っていたのはブラッケ、リヒターの方か。
「しかし、貴族達が反発しよう。抑えきれぬ」
リッテンハイム侯の答えにリヒテンラーデ侯が薄く笑いを浮かべた、何処か禍々しい笑いだ。そして傷が痛むのかまた小さく呻いた、額には汗が浮いている。
「反乱軍にぶつけろ、ニーズホッグが片付けてくれる。奴、喜んで貴族達を殺してくれよう。毒をもって毒を制す、よ」
「……」
毒か、確かにヴァレンシュタインも毒なら貴族達も毒だろう。帝国は国内、国外の毒に蝕まれている。それを噛み合わせるか……。どちらか一方が無くなればそれだけでも帝国にとってはプラスではある。
「しかし貴族達が敗れればそれだけでも革命に火が付きかねん……」
「貴族達が敗れた時点で改革を宣言するのだ。連中が敗れれば兵力はかなり減る。卿らの兵力と軍の兵力を合わせれば十分に対応可能であろう。貴族達も卿らと軍と平民、その全てを敵にする事は出来まい」
リッテンハイム侯が厳しい表情をしている。危険だと思っているのだろう。わしも同感だ、危険が大きすぎる。一つ間違えば貴族達と平民達の両方を敵に回しかねない。当然だがその時は軍も当てには出来ないだろう。
我らが無言でいるとリヒテンラーデ侯が低い声で笑い出した。
「危険だと思っておるか、しかし他に道が有るか? 有るまい。卿らは一本道を進むほか生き残る術は無いのだ。私が逃げられなかったように卿らにも逃げ場は無い。それに、私の見通しが甘か
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