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ラッキークローバー
第四章

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「こうして幾つも見られるなんて」
「思わなかったわね」
「あってもね」
 先生の言う通りにだ。
「ここまであるなんて思わなかったよ、けれど」
「ええ、あるから」
「一つ拝借してね」
 摘み取って、というのだ。
「標本に入れるよ」
「そうするのね」
「早速ね」
 晴香に言ってすぐにだった、剣は実際に四つ葉のクローバーの一つを摘み取って押し花の標本の中に入れた。そうして長年の望みが適えられたことに満足していたが。
 その彼にだ、厩舎から出て来た八条大学農学部二年の橋上幾太郎が目を瞬かせてその剣にこう言ってきた。
「おい君四つ葉のクローバーを摘んだのか?」
「あっ、はい」 
 その通りだとだ、剣は我に返って彼に答えた。
「そうです」
「そんなのここだと幾らでもあるんだけれどな」
「それは聞きました」
 剣は橋上の精悍で引き締まった顔と作業服に包まれた身体を見つつ答えた、実に格好のいい感じである。
「そうらしいですね」
「ああ、何しろな」
「何しろ?」
「そこは馬がよく吐くからな」
「えっ、吐くって」
「だから吐くんだよ」
 何を吐くかは言うまでもなかった。
「そこにな」
「そんな場所だったんですか?」
「そうだ、馬が吐いた場所にな」
 まさにそこにとだ、橋上は晴香と共にいる剣に笑って話した。
「四つ葉のクローバーが生えるんだよ」
「そうだったんですか?」
「あれっ、知らなかったのか?」
「初耳ですけれど」
「いやいや、これがな」
「本当にですか」
「馬が吐いた場所によく生えるんだよ」
 四つ葉のクローバー、それがというのだ。
「面白いだろ」
「あの、面白いっていうか」
「驚いたみたいだな」
「そうだったんですか」
「どういう訳か知らないけれど栄養のせいか?」
 馬の吐いたものに含まれているそれではないかというのだ。
「その吐いた後にな」
「四つ葉のクローバーが生えますか」
「だからそこには多いんだよ」
「じゃあここは」
 晴香も橋上の話を聞いて言った。
「お馬さんがよく吐いていて」
「君が今いる場所もだよ」
「ひょっとしたらですか」
「吐いた後かもな」
「そんな場所ですか」
「そうかもな、まあ今は奇麗さ」
 吐いていたとしても随分と時間が経っているからだというのだ。
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