第五章
[8]前話
「仕事もしましょう」
「これまで通りな」
「はい、ただ」
「ただ?」
「新作ですが」
フィルドゥシーはハットゥーシにこの話もした。
「何を書きますか?」
「それはもう決まってるさ」
ハットゥーシは酒を飲みつつフィルドゥシーに応えた。
「もうな」
「っていいますと」
「あいつ等を書く」
こう言うのだった。
「ナベツーラ達をな」
「ああ、このことをですか」
「書かずにいられないからな」
肴の羊肉を焼いたものを食べつつだ、フィルドゥシーに言った。
「それこそ」
「あんまりにも酷いからですね」
「そうだ」
実際にという返事だった。
「それでな」
「わかりました、じゃあ書いて下さいね」
「そうするな」
「しかし、本当にですよ」
フィルドゥシーは新作の話が整ってからだ、ハットゥーシにやれやれといった顔で述べた。
「酷い話でしたね」
「全くだな」
「国も滅んで」
「そうなったな」
「嫌な話でしたよ」
「全くだな」
「馬鹿が国のトップに立って軍隊を動かしたら」
「それで国が滅ぶ」
「そういうことですね」
サラーフ王国の滅亡は歴史に残った、滅ぼしたのはナベツーラ達であるとはっきりと書かれた。そしてそれと共にだった。
この事実は文民統制の失敗例として語られることになった、軍事知識のない愚かな人物が軍事のトップに立ちそのうえで恣意的な人事を行えばどうなるか。その最高の事例の一つとして歴史に名を残ることになったのだった。
シビリアンコントロール 完
2017・2・15
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