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有終の美
第二章

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「最後に自分の作品の指揮をしたいのです」
「最後だからこそ」
「そうです、残された時間が少ないなら」
 それなら余計にというのだ。
「そうしたいのですj、駄目でしょうか」
「それで宜しいのですね」
 彼はウェーバーに問うた。
「最後は休まれてではなく」
「はい、指揮をしてです」
 そうしてというのだ。
「それで終わりにしたいのです」
「そこまで思われるのは」
「私の作品の上演です、それに」
「音楽家として」
「そうです、最後まで音楽に携わってです」
 そのうえでというのだ。
「この世を去りたいのです」
「そうお考えですか」
「いけませんか」
 己の考えをここまで話してだ、ウェーバーは問い返した。
「その様にしては」
「いえ」
 問うた彼は首を横に振ってだ、ウェーバーに答えた。
「そこまで思われるのなら」
「いいというのですね」
「そうされて下さい」
 瞑目する様にして答えた。
「それでは」
「有り難うございます、それでは」
「指揮を期待しています」
 彼のそれをというのだ。
「是非共」
「そうさせてもらいます」
 ウェーバーは苦しい息を出しつつ応えた、病は話をしている間も彼の身体を蝕んでいる。話をするだけでも辛かった。
 だがそれでもだ、ウェーバーは何とかだった。
 劇場に赴いた、そしてだった。
 開演を待った、周りはその彼にまた言うのだった。
「もうすぐです」
「上演となります」
「序曲からですね」
「指揮を執られますね」
「そうします、最後まで」
 その序曲から閉幕までというのだ。
「楽しみです」
「ご自身の作品の指揮が」
「まさになのですね」
「そのことは最高のことです」
 音楽家としてだ、ウェーバーは周りに言った。
「自身の作曲した作品を指揮出来る、このことは」
「だからこそですね」
「指揮をされるのですね」
「最初から最後まで」
「何としても」
「そうです、では行きます」
 ウェーバーは立った、一人で。
 そして周りが彼を支えようとするがその彼等をだった。
 微笑んでだ、こう言って止めたのだった。
「大丈夫です」
「そうなのですか」
「お一人で歩かれますか」
「指揮台まで」
「そうされますか」
「そうです、指揮台まで一人まで行けないと」
 歩いて、そうしてだ。
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