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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第六十二話 蛟竜
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では兵力の分散、遊兵化でしかない。思わず溜息が出た、出兵を決めて以来、この事を何度も考えている。そして結論は出ない、出ないからまた考える。同じ事の繰り返しだ。

「殺しておくべきだったか……。馬鹿な、何を考えている」
またこの言葉を呟いてしまった。前回の敗戦から何度も考えてしまう。殺しておけばあの敗戦は無かったと。誇りと矜持、そのためにあの男を反乱軍の元に帰した。あれは間違っていたのか……。だが俺にあの男を殺せただろうか? 殺せば俺は俺ではなくなっていただろう。

このオーディンでもあの男を帰したことを非難する人間が居る。無理もない、あの男一人に帝国は滅茶苦茶にされているのだ。帝国は舵を失った船のように右往左往している。非難が出なければその方がおかしい……。また溜息が出た。

澄んだ目の男だった、緊張も怯えもなく自然だった。何処かで自分の命を見切っているようにも見えた。誰かのために命を投げ出すことが出来る男だった、そしてあの男のために命を投げ出す人間が居た。手強い相手だとは分かっていた、危険な男だと言うのも分かっていた。だがまさかここまで酷くなろうとは……。

考えるな、考えても仕方がない事だ。起きてしまったことを後悔しても何にもならん。死んだ者は生き返らん、生きている人間の事を考えろ。ミューゼルは良くやっている。反乱軍と戦うにはあの男の力が必要だ。出来るだけ後ろ盾になってやらねばならん。

あの男を殺さねばならない、その事がこれからの俺の責務になるだろう。宇宙艦隊司令長官……、そのための地位も権限も得た。そして頼りになる部下もいる。どうやら俺の死に場所は地上ではなく宇宙空間で艦の中になりそうだ。おそらくトマホークを振るうことなく死ぬことになるだろう、それもまた運命か……。



宇宙暦 795年 6月 26日  ハイネセン  ユリアン・ミンツ



「准将、良いんですか?」
「たまには外で食べるのも良いさ。ユリアンにはいつも食事の用意をさせてるからね。今日は家事から解放してあげるよ」
「はあ」

眼の前にあるレストラン、三月兎亭はハイネセンでも美味しい事で有名なレストランのはず。当然だけど値段もそれなりに高いと思う。ヤン准将は若いけどお給料は多くもらっているはずだから大丈夫だろうけど良いのかな、こんな贅沢して……。

ヤン准将は僕の心配なんか気にする様子もなくレストランの中に入っていく。後を付いて行くと威厳と体格、美髯に恵まれた老ウェイターが出てきた。
「二名様でいらっしゃいますね、申し訳ありませんがただ今満席でしてしばらくお待ちいただくことになりますが……」
「どのくらいかな」
「二時間程度はお待ちいただくかと」

どうやら准将は予約を入れていなかったらしい。
「平日だから大丈夫かと思ったんだ
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